れからこんどは赤くなった。彼女のしっかり閉じられた瞼《まぶた》の下に大きな眼玉がごろんと動くのが見えた。彼女は恍惚境《こうこつきょう》に入っているらしい。
 青年が腕を解《と》いて小山嬢を離すと、彼女は靴を持ったまま傍の椅子の上へ、へたへたと崩《くず》れるように腰をおとし、しばらくは動こうともせず、口もきかなかった。
(無電装置と放射線計数管と浚渫機《しゅんせつき》とを備えている靴――とは、妙な靴があったものだ。一体この三題噺《さんだいばなし》みたいなものをどう解くべきであろうか)
 帆村は、小山嬢がまだ持続する恍惚境から醒《さ》めやらぬのを見やりながら、心のなかにメモをとった。
 そのうちに小山嬢は、やっと正気に戻ったと見え、靴を抱《かか》えて椅子から立上った。
 彼女はその靴の紐《ひも》を、博士のズボンの下端《かたん》にまきつけて縛《しば》った。ズボンが靴をはいたように見える。
 それがすむと、小山嬢は、飾椅子に結《ゆわ》きつけてあった綱をほどき、宙に首吊《くびつ》りを演じている博士の身体を下におろし、前のとおり肘懸《ひじかけ》椅子に腰を掛けさせた。博士の死体は、綱を首にまきつけた
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