ろつこうと、真昼のビル街を掠《かす》めようと問題ではない。そうでしょうが……」
「いや、おかしいよ。鞄は必ずしも空中を泳いでばかりはいない。神妙に下に落着いていることもある」
「そんなことは仕掛の工合《ぐあい》でどうにでもなりますよ。たとえぼ、鞄の把柄を手に持って鞄を下げているときには、スイッチが外《はず》れるようになっていて異変《いへん》は起らない。しかし把柄が握られていないときはスイッチが入って、鞄は例の素因《そいん》により万有引力に勝《まさ》って浮きあがる――つまり鞄とその中身との重さが一枚の羽毛ほどの重さに変わってしまう。そういうわけでしょうな」
「実際に出来るのかね、そんな仕掛が……」
「発明が出来れば、あとは仕掛を作ることなんか極《きわ》めて容易《ようい》ですよ」
「ふうん、そんな鞄がどんどん現れて管下一円《かんかいちえん》を脅《おびやか》すことになれば、わし達は鞄狩りに手一杯となり、他の仕事が出来なくなるだろう。とにかく怪談にせよ引力にせよ、一大事件だ。早いところその核心《かくしん》を摘出《てきしゅつ》して、犯人を検挙せにゃいかん」
「犯人というほどのものじゃないでしょう
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