こんなことは断るまでもない常識事です。そしてその浮力が仔猫の場合に於ても、鞄の場合に於ても万有引力に比して殆んど省略し得る程度の微小《びしょう》なる力です。これはこれで片づいたとして第二に考えられることは……」
「頭の痛くならんように喋《しゃべ》ることはできないものかね」
「ご尤《もっと》もです。……それでそれは――第二に考えられることは、万有引力常数を変えてしまうこと。第三には第三の物体を誘致《ゆうち》し来《きた》って、それによる引力を、万有引力以上に効《き》き目を持たせること。それから第四に、アインシュタインの設定した万有引力テンソルを……」
「待った。もうたくさん」
「第四は、今の場合論じなくてもすみますから、横へどけて」
「みんな横へどけて、怪談へ戻ろうじゃないか」
「とんでもない。要するに、第二又は第三の素因《そいん》によって、仔猫が宙を飛び、鞄が空を走るものと推定し得られないことはない。赤見沢博士のユニークな頭脳はそれを装置化することに成功したのではないか。仔猫が飛び鞄が走るは、その装置化の成功を語っているのではないか。しからばもはや鞄が深夜《しんや》の焼跡《やけあと》をう
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