は急に男に対してやさしくなり、そしてその鞄を二人で守って男のアパートへ入り、同棲《どうせい》生活の第一夜を絢爛《けんらん》と踏み出すことに両人の意見は完全なる一致をみたのであるが、この詳細もここにくだくだしく描写している遑《いとま》はない。
それよりは問題はトランクの運命にある。そのトランクは翌朝両人が目ざめてみると、たしかにそこに置いた筈の夜具の裾《すそ》のところには見当らず、両人は目を皿にして部屋中を匐《は》い廻ったがどこにもなく、そこで両人互いに相手を邪推《じゃすい》して立廻りへと移行したが、両人が相手の顔を捻《ね》じて天井へ向けたときに、そこにぴったり吸いついている前夜のトランクを両人が同時に発見した。そこで両人は再び協力し、誰がトランクを天井の桟《さん》に釘をうってそれへ引掛けたかを怪しみながら、机に椅子を積み重ね、箒や蝙蝠傘《こうもりがさ》やノックバットまで持ちだしてそのトランクを下ろそうと試みた。そのうちにどうした拍子《ひょうし》かトランクの蓋が開いて、その中身が五彩《ごさい》の滝となって下に落ちて来た。両人がそれにとびついて、かき集めている間に、トランクは明いた窓から
前へ
次へ
全85ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング