ょう》でないが、多分あまり安く値切って買ったのが気になっていたのかもしれない。
夕食後、彼は居間に引籠《ひきこも》った。例の鞄を押入から出して、絨氈《じゅうたん》の上に置いて開いた。それから彼は箪笥《たんす》の引出をあけて中からなまめかしい婦人の衣類を取出し、それを一々電灯の灯の近くへ持っていって眺め、指先で布地を摘《つま》み且つ匂いを嗅《か》いだ。そして二種類に別《わ》けて積んでいったが、その一方を例の鞄の中へていねいに入れ始めた。長襦袢《ながじゅばん》もあるし、錦紗《きんしゃ》もあるし、お召《めし》もあり、丸帯もあり、まるで花嫁|御寮《ごりょう》の旅行鞄みたいであった。その上にも彼は、隅の金庫を開いて中から取出した貴金属細工のついた帯留《おびどめ》や指環の箱、宝石入りのブローチの箱、腕環《うでわ》の箱などをその鞄の中、ほどよきところへ押込んだ。最後に特別になまめかしい鹿《か》の子《こ》緋《ひ》ぢりめんの長襦袢を上にのせ、それから鞄の蓋をしめたのであるが、ぎゅうぎゅうに詰まっているので蓋は外に向って太鼓腹《たいこばら》のように膨《ふく》らんだ。そのあとで彼、酒田は意外なことを発見し
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