るいトランクだろう。豚《ぶた》のように跳ねあがり、通りすがりのトラックへとびこんで逃げてしまいやがった。これで、今朝、顔色のわるいカーキ服の男から三百円で買い取った品物をなくして、三百円丸損となってしまったぞと、大いに恨《うら》めしく思った。
 この話が、誰から誰へとなく拡がって行ったのである。


   怪異《かいい》は続く


 東京朝夕新報の朝刊八頁の広告欄に、気のついた人ならば気になったであろうところの三行広告が二つ並んで出ていた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
○紛失《ふんしつ》、赤革トランク、特別美|且《かつ》大なる把柄《はへい》あり、拾得届出者に相当謝礼、姓名在社三二五番
[#ここで字下げ終わり]
 もう一つは、次のとおりであった。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
○紛失、赤革トランク、特別美且大なる把柄あり、拾得届出者に莫大《ばくだい》謝礼、姓名在社三二六番
[#ここで字下げ終わり]
 つまり両方とも赤革トランクを返してくれと訴えているものだった。
 前日トラックの運転手は、空トラックを店のガレージの前に停め、車体の点検を行ったとき、ふしぎ
前へ 次へ
全85ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング