は置いておけない。とっとと出て行け」


   不意討《ふいうち》


 臼井の顔が、酒に酔った人のように真赤になる。目賀野の顔色はすごいまでに蒼《あお》い。
「こんなにまでして貴方に尽《つく》しているのが分らんですか」
 臼井が残念そうに声をふり絞った。
「わしの命令から逸脱《いつだつ》するような者をこのまま黙って許しておけると思うか。事の破綻《はたん》はみんな貴様のよけいなことをしたのに発している。こんな鞄が何に役立つ。この材木は一体何だ。風呂桶《ふろおけ》の下で燃すのが精一杯の値打だ」
「そんな筈はないんですがなあ。もっと慎重によく調べさせて下さいよ」
「その必要はない。何もかもおれには分っとる。おまけに博士をあんなに生ける屍《しかばね》にしてしまって。……わしの計画は滅茶滅茶《めちゃめちゃ》じゃないか」
「博士は外出時に変装するということを貴方が僕に注意しなかったのが、そもそも手落ちですよ」
「博士のラボラトリーの前から警戒監視すべきが当然だ。しかるに貴様は骨を惜んで田端駅で待っていた。横着者《おうちゃくもの》め。そして博士が到着しないと分ると、そこで初めて目黒へ駆けつけた。そ
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