鞄じゃないか。こんなものをありがたく受取って来て、どうするつもりか」
目賀野は、満身|朱盆《しゅぼん》のようになって、臼井を怒鳴《どな》りつけた。
「ただの鞄だと断定するのは、まだ早すぎると思います。もっとよく研究してみるべきではないでしょうか」
「駄目だ。これだけ色々とやってみても、がたりともせんじゃないか。ただの鞄に過ぎないことは明白《めいはく》だ。赤見沢博士謹製のものならこんなことはない」
「おかしいですね。……博士はこの鞄と共に警察署へ保護されていたんで、間違いはない筈なんですがね。それとも……」
と、臼井はしばらく自分のおでこを指先でつまんで考えこんでいたが、そのうちに彼は指を角材の方へ指した。
「ああ、これだ。この杉の角材ですね。この中に博士の仕掛があるのですよ。閣下の御註文《ごちゅうもん》のとおり鞄にして置くと目に立つという心配から、仕掛はこの角材の中に秘《ひ》めて邸から持ち出されたんじゃあないでしょうか。いや、それに違いないです。そうでもなければ、ねえ閣下、鞄の中に杉の角材などを大事そうに収《しま》っておくわけがないですよ」
臼井は、勇敢なる説を立てて、目賀野を説
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