《た》えたものと思う。そのうちに彼女の身体を吊下《つりさ》げている紐が切れ、下へ落ちてしまったのであろう。恐《おそ》らくそれは広い海の中であったことと思われる。彼女の繊細《せんさい》なる手首が紐でこすられて血が出、それが紐の切れ端に残ったことは確かだ。こうして彼女は、遂に敗れて一命《いちめい》を失ったものらしい。
臼井は今も行方が知れない。
それから最後に特筆大書《とくひつたいしょ》しておくべきは、田鍋課長が目賀野を証人として、烏啼に会わせたところ、目賀野がびっくりして烏啼を指して叫んだ。
「やッ、貴様は千田じゃないか」
烏啼は、繃帯《ほうたい》を巻いた頭をすこし起こして、ふふんと笑った。
「貴様が千田なら、おい話せ、わしの姪《めい》の草枝はどこへ連《つ》れていった」
千田と草枝が一組となって、いつも目賀野の下で働いていたことは、ずっと前から知られている。
「おれは知らんよ。課長に願って、細紐に残っているあの女の血に尋《たず》ねてみたがよかろう」
と、烏啼はいって、むこうを向いてしまった。
そんなことから、目賀野の姪の草枝こそ、看護婦秋草のことであり、彼女が或るときは烏啼に協力しながら、後には烏啼と張合ってラジウムやお化け鞄やお化け猫の争奪に生命を賭《か》けたことが判明した。
これで、鞄らしくない鞄の話は、すべて終ったわけであるが、気の毒なのは赤見沢博士である。博士は研究所を火災《かさい》で失って、どうにも復興《ふっこう》の見込みが立たず、あたら英才《えいさい》を抱《いだ》いて不幸を歎《たん》しているという。しかし博士のことだから、そのうちにもっと何かいい手段を考え出すことだろう。博士が、この次に、重力消去装置をどんな方面に活用するかは、非常に興味あることだと思う。
底本:「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」三一書房
1992(平成4)年2月29日初版発行
※「深夜の研究室」において、小山嬢が綱を結びつけたところは、「壁際の鉄格子」と「飾椅子」の二つが示してある。矛盾しているが、底本のママとし、本文中には注記しなかった。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2001年7月21日公開
2006年7月27日修正
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