。これは風船の、呼吸《いき》を吹きこむところと、その反対のお尻のところとの両方に貼る尻あて紙[#「あて紙」に傍点]である。呼吸を吹きこむ方のには、小さい穴を明けて置く、これだけが風船の材料であるが、それを豊富にとりそろえて置く。
紙風船の作業は、一番初めに、あの花びらのような材料の組み合わせを作る。たとえば赤と黄との二色を、一つ置きに張った風船をつくるのであると、そのような二種の花びらを揃える。それから一枚一枚、すこしずつ外《はず》して並べ、ゴム糊《のり》を塗る。それが一役。
次へ廻ると、ゴム糊の乾《かわ》かぬほどの速度で、その花びらを一つ置きに張ってゆく。すると台のない提灯《ちょうちん》のようなものが出来る。これが一役で、四五人でやる。
今度はそれの乾いた分から取って、半分に折り、丁度《ちょうど》お椀《わん》のような形にする。これも一役。
次は私と五十嵐庄吉とのやっている作業であるが、二人の間に、張型《はりがた》のフットボールの球に足をつけたようなものが置いてある。まず五十嵐の方が、二つに折られて来た紙風船をとって、いきなりこのフットボールの上にパッと被せる。すると私は、オブラートに糊《のり》をつけたものを持っていて、その風船の肛門《こうもん》のようなところへ円い色紙をペタリと貼りつける。すると間髪《かんぱつ》を入れず、五十嵐の方が風船をフットボールから外《はず》すと、素早くお椀みたいなのを裏返しにして、もう一度フットボールの上に載せる、すると反対の側の風船の肛門が出てくるから、私は小さい穴のあいている方のオブラートをペタリと貼るのである。それで紙風船の作業は終った。
あとは五十嵐が、出来上った紙風船を、お椀《わん》を積むように、ドンドン積み重ねてゆく。すると、ときどき検査係が廻って来て、その風船の山を向うへ搬《はこ》んでいってしまう。
私と五十嵐とは、うまく呼吸《いき》を合《あ》わせて、
「はッ、――」ポン。
「いやア。――」ポン。
と、まるで鼓《つづみ》を打っているように、紙風船の肛門を貼ってゆくのであった。――だがこんな仕事は、せいぜい一と月もやれば、いやになるものだった。
しかし月日の経つのは早いもので、そのうちに刑務所のお正月を、とうとう五度、迎えてしまった。やがて二月が来れば、いよいよ娑婆《しゃば》の人になれることとなった。その後、あの
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