つ》ちゃん、ブウちゃんなどが集まってきて、このおもしろくない世の中をなげいた。
「あ、あるよ、あるよ」
 ブウちゃんが、とつぜんでっかい声を出してさけんだ。
「あるって、何がさ?」
「つまりベースボールがやれる広い場所さ」
「へえ、ほんとうかい。どこにある?」
「アサヒ軍需興業《ぐんじゅこうぎょう》の工場の中さ。あの中なら広いぜ」
「なあんだ、工場の建物の中でベースボールをするのか」
 この町をいつまでもきたならしい灰色に見せておくのは、そのアサヒ軍需興業の廃工場の群《むれ》だった。
 終戦後《しゅうせんご》その工場は解散となり、それからは荒れるままに放《ほ》っておかれ、今日となった。同じ形の、たいへん背の高い工場が、六万坪という広い区域に一定《いってい》のあいだをおいて建てられているところは殺風景《さっぷうけい》そのものであったし、それにこのごろになって壁は風雨《ふうう》にうたれてくずれはじめ、ところどころに大きく穴があいたり、屋根がまくれあがったり、どう見ても灰色の化物屋敷のように見えるのだった。
 それにこの荒れはてた工場については、数箇月前のことであるが、恥《はじ》の上塗《うわ
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