骸骨館
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)廃工場《はいこうじよう》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)骸骨|志願《しがん》だ。
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廃工場《はいこうじよう》の町
少年たちは、遊び方に困っていたし、また遊ぶ場所もなかった。
家と道のほかは、どこも青々とした家庭菜園《かていさいえん》であった。道さえも、その両側がかなり幅《はば》をとって菜園になっており、その道を子供が歩くときでも、両側からお化《ば》けのように葉をたれている玉蜀黍《とうもろこし》や高梁《こうりゃん》をかきわけて行かねばならなかった。
そういうところを利用して、少年たちはかくれん坊のあそびを考えついたこともあったけれど、それは親たちからすぐさまとめられてしまった。せっかく作った野菜が少年たちによってあらされては困るからだった。
「つまらないなあ」
「なんかおもしろいことをして遊びたいね」
「ベースボールをしたいんだけれど、グラウンドになるような広いところがどこにもないね。つまらないなあ」
清《きよし》君、一郎君、良《りょう》ちゃん、鉄《てつ》ちゃん、ブウちゃんなどが集まってきて、このおもしろくない世の中をなげいた。
「あ、あるよ、あるよ」
ブウちゃんが、とつぜんでっかい声を出してさけんだ。
「あるって、何がさ?」
「つまりベースボールがやれる広い場所さ」
「へえ、ほんとうかい。どこにある?」
「アサヒ軍需興業《ぐんじゅこうぎょう》の工場の中さ。あの中なら広いぜ」
「なあんだ、工場の建物の中でベースボールをするのか」
この町をいつまでもきたならしい灰色に見せておくのは、そのアサヒ軍需興業の廃工場の群《むれ》だった。
終戦後《しゅうせんご》その工場は解散となり、それからは荒れるままに放《ほ》っておかれ、今日となった。同じ形の、たいへん背の高い工場が、六万坪という広い区域に一定《いってい》のあいだをおいて建てられているところは殺風景《さっぷうけい》そのものであったし、それにこのごろになって壁は風雨《ふうう》にうたれてくずれはじめ、ところどころに大きく穴があいたり、屋根がまくれあがったり、どう見ても灰色の化物屋敷のように見えるのだった。
それにこの荒れはてた工場については、数箇月前のことであるが、恥《はじ》の上塗《うわ
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