ぬ》りのようなかんばしくない事件がおこった。それはこの工場に隠匿物資《いんとくぶっし》があるはずだとて、大がかりな家《や》さがしが行われたのである。その結果、一部のものは発見されたが、その捜査の第一番の目あてであったダイヤモンド入りの箱は、ついにさがしあてることができなかった。その宝石箱《ほうせきばこ》には、この工場で使うダイヤモンド・ダイスといって、細い針金つくりの工具をこしらえるその資材として総額五百万円ばかりの大小かずかずのダイヤモンドが入っているはずで、中にも百号と番号札をつけられたものは三十数カラットもあるずばぬけて大きいダイヤモンドで、これ一箇だけでも時価《じか》百五十万円はするといわれていた(このダイヤは、ある尊《とうと》い仏像《ぶつぞう》からはずした物だといううわさもあった)。なぜこのダイヤの箱が見あたらないのか。あまり大きくもない箱だから他の品物とまぎれて焼き捨てられたのかも知れず、あるいはひょっとするといつの間にか盗難にかかったのかもしれないということだった。だがそれほどの貴重《きちょう》なものを、わからなくしてしまうというのは、おかしいというので、工場は何回にもわたって厳重《げんじゅう》な捜査《そうさ》が行われた。だが、やっぱり見つからずじまいであった。終戦直後はみんなが生ける屍《かばね》のように虚脱状態《きょだつじょうたい》にあったので、ほんとうにうっかり処分されてしまったのかも知れなかった。とにかく今もその謎は解《と》けないままに残されている。
 作者《わたくし》は、百号ダイヤのことについて、あまりおしゃべりをすごし、かんじんの清君たちの話から脱線《だっせん》してしまったようだ。では、章をあらためて述べることにしよう。


   胆《きも》だめし


 少年たちは柵《さく》の破れ目から、廃工場のある構内《こうない》へ入っていった。一番手前の工場からはじめて次々に工場の内部をのぞいていった。どの工場も、窓ガラスが破《わ》れているので、そこからのぞきこめばよかった。破れ穴が高いときには少年の一人が他の少年に肩車《かたぐるま》すればよかった。
 一番目から三番目までの工場は、いずれも中でベースボールをするには向かなかった。そのわけは、工作機械がさびたまま転がっていたり、天井からベルトが蔓草《つるぐさ》のようにたれ下っていたりしたからである。しかし
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