してあやしい人物を下から照らしあげたのである。人相《にんそう》のよくない一人の男が、ぶるぶるとふるえ、両手を合わせて、しきりに拝《おが》んでいる。拝まれているのは清君と一郎君――いや、例の二体の骸骨だった。
「盗《と》りました、盗りました。わ、私にちがいありません。……はい、何もかも申し上げます。わ、私がかくしましたので……ここへ掘りました。館内防空壕の奥でございます。その奥をもう少し穴を掘りまして、そこへかくしておいたのでございます。……いえ、みんなそっくりしております。百号ダイヤもそのままです。おかえししますから、どうぞお助けを……。尊《とうと》い仏像から抜いた、もったいないダイヤを自分のものにしようと思った私は、罪ふかいやつでございます。しかしみんなおかえししますゆえ、どうぞ私を地……地獄へはやって下さるな。ああ、おすがりします。なむあみだぶ、なむあみだぶ、うへへへ……」
「いや、ゆるさぬぞ。きさまはこれから地獄へつれて行く……ここは地獄の一丁目じゃ。それを知らぬか。いひひひひ」
「やややッ、お助け……ううーン」
あやしい人影は、へたへたと草むらの中にくずれるように倒れ、気を失ってしまった。すべて骸骨係の演出がじょうずだったせいであり、ことに清君が、自分のこわいのをがまんして、「いや、ゆるさぬぞ、これから地獄へつれて行く……」などとへんな声で骸骨のせりふをいったのが、よくきいたのだ。
ブウちゃんがとびだしていって知らせたので、警官隊がやって来て、あやしい男をとらえた。この男こそ、かねて捜査中の五百万円のダイヤの入った箱を盗《と》った犯人であった。彼がその箱を土中から持ち出そうとしたとき、ちょうどうまく骸骨おどりにぶつかって、胆《きも》をつぶしてしまったのであった。自分がうす暗いことをしているから、骸骨にびっくりしたのだ。
このことがあって、廃工場の建物はすっかり取り払われた。そしてあとに広いグラウンドができた。少年たちは大よろこびで、そこでベースポールをはじめた。大犯人|捕縛《ほばく》と五百万円ダイヤ取りもどしのごほうびとしてもらった二組のベースボールの道具を使って、少年たちは大にこにこである。
底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行
初出:「こども朝日」朝日新聞社
1946
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