じン」の「ン」は小書き]と建物は震《ふる》えた。
彼は、くらがりの中で手に当った服をすばやく、身につけた。
室から飛びだすと、ネオンの常置灯《じょうちとう》が、うすぼんやり廊下を照らしていた。
(防空室は、どの階投を下りるのかな)
彼は、アンから教わった階段を忘れてしまった。そのときまた、つづけさまに、爆音が轟《とどろ》いた。ひゆーンという飛行機の呻《うな》りが聞える。どうもドイツ機らしい。廊下のつきあたりのカーテンが、ぴかっと光った。外の爆発の閃光《せんこう》が、カーテンを通すのであった。建物は、今にも裂《さ》けとびそうに、鳴動《めいどう》する。
そのとき、爆弾の音を聞きながら、彼は、なにかこう、男性的な快感を覚《おぼ》えた。
「そうだ。屋上へ上って、一つ、戸外《こがい》の様子を見てやれ」
こういう山の上の建物だから、よもや大して爆撃されることもあるまいとも思ったのである。彼は、廊下の突き当りの扉《ドア》をあけて、非常梯子《ひじょうはしご》づたいに屋上の方へ上っていった。
壮観《そうかん》であった。思いがけない大壮観であった。眼下に見えるクリムスビーの町の上には、照明弾が
前へ
次へ
全83ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング