ですね。それを私の場合に活用する途《みち》はないでしょうか。まず無理でしょうね」
「そうです。無理という外ありますまい。今申した例は、偶然の機会が、それを癒したのです。医師が計画した治療法ではない」
「なるほど」
「ですから、あなたの場合でも、もし運がおよろしくて、その障害を起した当時と同じ事件の中に置かれ、同じような負傷でもなされば、或《あるい》はそれがうまくいって、記憶の恢復が起るかもしれません。しかし何分《なにぶん》にも、これは計画的にやって見ることの出来ないことなので、困りますなあ」
「ほう、生理的神経的の歪みですか。そしてこれを復習する極めて稀《まれ》な幸運ですか。いや、お蔭さまで、諦《あきら》めがついてきました」
「それから、あなたが記憶亡失前に持っていられた所持品《しょじひん》についてはもっと詳しく、科学的調査をおやりになるがいいでしょうね。これは一種の探偵術ですが、従来《じゅうらい》の例に徴《ちょう》しても、所持品からの推理によって昔、あなたが住んでいられた世界や職業や、それから家族のことなどを、立派に探しだすことに成功した例があるのです」
それを聞くと、仏天青は、俄
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