ことが出来るのですがね」
「なるほど、歪みを取去る方法ですか。それは、どうすればいいのですか」
「歪みといっても、生理的神経的なものですから、それと同じ方法によらねばならない。生理的神経的に、或る強い刺戟を受ければいいということはわかっているが、さて、その刺戟は、一体どんな刺戟であるかということになると、さっぱり分らない」
「なぜ、分らないのですか」
「それは、つまり、こうでしょう。仮《か》りに、あなたが、一婦人と非常に争っていた。そのとき、婦人がピストルの引金を引いて、あなたの頭へ、弾丸《たま》の破片を撃ちこんでしまった、これは仮定ですよ。もしもこういう場合に、あなたのような記憶亡失《きおくぼうしつ》の障害が起って、脳が健康を取戻しても、尚且《なおか》つ記憶が恢復しない。そういうときに、癒《なお》った実例があるのです。もう一度、その婦人と、ひどい争いをした。婦人は、またピストルを撃った。そして今度は、彼の前額《ぜんがく》を僅かに傷つけた。すると、とたんに、彼の記憶が戻った。彼は、戦闘を中止して、その婦人を生命の恩人だといって抱きあげた――という例があるのです」
「それは、興味ふかい話
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