彼は、天を恨《うら》むより外《ほか》、なかった。車を下りてみると、森の向うは、まるで地獄のように、引繰《ひっく》りかえっていた。あの広壮《こうそう》な建物という建物は一つとして影をとどめず、壁は、歯のぬけた歯茎《はぐき》のようになっていた。彼は、これより内へ入るべからずという縄張《なわばり》のところまで出て、すっかり見ちがえるような監獄跡に佇《たたず》んで、しばし動こうともしなかった。
運転手が、彼の耳に囁《ささや》いた。
「旦那、あのへんで、三千五百名の囚人と、それから七百名の監獄役人とが、崩れた建物の下で、一ぺんに、蒸《む》し焼《や》きになってしまったんですよ。そして、このとおり綺麗なものでさ。残っているのは、煉瓦とコンクリートばかりだ。いや、それから、あの鉄の門と……」
仏天青は、なぜ天は、こう意地悪なのであろうかと、深い溜息をついた。第二のプランも、ついに駄目だった。
14
第三の、そしてこれが最終のプラン――というので、仏天青《フォー・テンチン》は、リバプールの町にある精神科病院の門をくぐった。
院長ドクター・ヒルは、五十を過ぎた学者らしい人物だ
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