取り戻した。なんという頭の悪い、そして礼儀知らずの館員だろう。彼は憤然《ふんぜん》、大使館の門を後にした。そしてもう、こんなところへ二度と来るものかと思った。
 彼が、門を出ていってしまった後で、受附子は、にがにがしい顔をして、
「どうも、空爆のせいで、気が変な人間が殖《ふ》えて来るよ。わしは、この頃、世話ばかりやっているが、あいつが大使館参事官なんて、とんでもない奴だ」
 といいながら、ふと気がついて、書棚《しょだな》から在外使臣名簿《ざいがいししんめいぼ》を取り出して、頁《ページ》をくった。そのうちに、彼は、びっくりしたような声を出した。
「あっ、仏天青、駐仏《ちゅうふつ》大使館参事官! あっ、ここにあったぞ。この頃は、新任の連中が殖えて、一々名前を憶えていられないや。しまったなあ。このまま放って置けば、この次に来たとき、こっぴどい目に会うぞ。よし、追駆《おいか》けてみよう」
 受附子は、ちょっと顔色をかえると、あわてて、外へ飛びだした。
 だが、このときには、もう彼の姿は、どこにも見当らなかった。


     13


 仏天青《フォー・テンチン》は、列車にのって、リバプールに
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