の通り、夫にうまく行き逢いましたのよ。警官に行手《ゆくて》を拒《はば》まれた時は、どうなるかと思いました。幸いにその途中で夫に逢えたもんですから、こんな幸運て、ちょっとありませんわ」
「まあ、それはそれは、御運のよかったことで……で、すぐロンドンへいらっしゃるでしょう。ねえ、アン」
「え、ええ、そうしましょう。荷物をとりに来たのも、そのためよ」
「午前九時十五分発の列車がいいですわよ」
「そうですか、午前九時十五分発ですね」
「気をつけていらっしゃい。こういうとき、あたしなら十三号車に乗りますわ。こういう時節《じせつ》のわるいときには、わるい番号の車に乗ると反《かえ》って魔よけになるのよ」
「十三号車? ええ、ぜひそうしましょう」
仏は、二人の会話を傍《そば》で聞いていたが、アンが、この下宿のかみさんドロレス夫人を、母親のように信頼しているのを知った。アンは、ドロレス夫人のいうとおり、なんでも従うつもりに見えた。車室まで、かみさんのいったとおりにするなんて、いやらしいほどの信頼ぶりだと、彼は思ったことだった。
二人は、荷物をとるために、奥へ入っていった。仏だけは、そこに置かれた一ぱ
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