ゆううつ》になった。が、アンがいよいよ空爆下の防空壕の外へ飛び出していくと、もうじっとしていられなくなって、アンの後を追いかけたわけだった。
 そのうちにも、彼は、
(こうして、もうしばらくアンの傍《そば》にいれば、本当に自分が彼女の亭主であるか、それとも防空壕の中で、臨時に捉《とら》えられた偽装《ぎそう》亭主であるかが判明するだろう)
 と、思っていたのであった。
 しかるに今、アンは、彼が、さきほど監獄から出たことを承知しているような口ぶりであった。
「そうなのよ。けさ、急に、あなたが、ブルートの監獄をお出になるって、知らせがあったもんだから、早く宿を出たんですの。そして海岸通りを桟橋の傍まで歩いて、そこで自動車を待っていると、あの身投げ騒ぎがあったのよ。そして、あたしは附近にいたというだけのへんな理由で、私服警官のため、その身投げ男の妻と見られて、捕縛《ほばく》されちまったの。そして、ブルートの未決監房《みけつかんぼう》へひいていかれるうちに、あの空襲警報に出遭《であ》ったのですわ」
 アンは、息をはずませながら、早口にそういった。
「ああ、そうだったか。おれはこの頃、神経衰弱に
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