。ばらばらと、天井から砂が落ちて来た。大地は、地震のように鳴動《めいどう》した。
「マスクは、出してお置きなさい。マスクのない人は、奥へいってください」
あっちでもこっちでも、お祈りの声だ。
「今度は、あぶない」
「おい、もっと奥へいこう」
揉《も》みあっている一団があった。
「騒いじゃ、駄目だ、敵機の音が聞えやしない」
「あたしゃ、昨日の空爆で、両親と夫を、失ったんだ。こんどは、あたしの番だよ。自分がこれから殺されるというのに、黙っていられるかい」
「まだ子供がいるだろう。年をとった別嬪《べっぴん》さん」
「なにをいうんだね。子供なんか、初めから一人もないよ」
「そうかい。だからイギリスは、兵隊が少くて、戦争に負けるんだ」
「なにィ……」
そのときだった。
天地もひっくりかえるような大音響《だいおんきょう》が起った。入口の方からは、目もくらむような閃光《せんこう》が、ぱぱぱぱッと連続して光った。防空壕は、船のように揺れた。そして異様《いよう》な香りのある煙が、侵入してきた。がらがらと壁が崩れる音、電灯は、今にも消えそうに点滅《てんめつ》した。避難の市民たちは一どきに立ち上って
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