、およそ二三百個も、煌々《こうこう》と燃えていた。この屋上にいても、新聞の文字が読めそうな明るさである。彼は、非常梯子を上へのぼり切って、屋上へ出たものか、それとも、この非常梯子にとりついてそっと首を出していた方がいいのか、ちょっと迷った。
そのときであった。彼は、屋上に、二つの人影が動いているのを発見して、おやと思った。
(何をしているのだろう?)
空襲見物では、あまりに物好《ものず》きである。彼は、自分のことは棚《たな》に上げて、そう思った。
その二つの人影は、屋上から躯《からだ》をのりださんばかりにして、何か、映画に使うような移動照明器《いどうしょうめいき》のようなものを、動かしている。
(おかしい。防空隊の照明班にしては、あまりに小規模《しょうきぼ》だし……)
彼は、爆撃中の危険も忘れて、その二つの人影の行動に、好奇心を沸《わ》かした。そして、その傍《そば》へ行って見る気になったのである。
彼は、梯子を登り切って、その人影の方へ歩いていった。向うでは、彼が近づいてくるのに全然気がつかないようであった。
「ああ、あれは、アンじゃないか」
彼の心臓は、どきんと鳴った。
「何をしているのですか」
彼は、二人の傍へいって、声を懸けた。
「ああッ」
二つの顔が、一せいに彼の方へ向いて、そして歪《ゆが》んだ。アンと、もう一人は、ボジャック氏だった。
「お待ち、ボジャック!」
アンが、ボジャックに飛びかかって、腕をおさえた。ボジャックの手には、ピストルが握られていた。そして、喰いつきそうな顔で仏を睨《にら》みつけている。
仏《フォー》は、刹那《せつな》に、一切《いっさい》を悟った。
(そうだったか。二人とも、ドイツ側のスパイだったんだな)
そう感じたが、なぜか、彼は、それほど愕《おどろ》かなかった。
「あなた。さっきのお約束をお破りになる?」
アンが、ボジャックの腕を必死になって、抑《おさ》えながらいった。
「……約束は、守るよ。だが、説明をしてもらいたいものだ」
「なにを……こいつを、やっつけたが、早道だ」
「お待ち。命令だ、撃ってはならない。それよりも、早く赤外線標識灯《せきがいせんひょうしきとう》を、沖合《おきあい》へ!」
アンは、上官のような厳《おごそ》かな態度で叫んだ。
「私は、皆さんの邪魔《じゃま》をしまい。私は、傍観者《ぼうかんしゃ
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