れから山岸中尉は、うしろをふりむいた。搭乗《とうじょう》のあとの二人は、どんな顔をしているだろう……。
中尉の弟である山岸少年は、艇がいまどんな危険な状態にあるかということを、すこしも知らぬらしい顔つきで、しきりに無電機械を調整しつづけている。地上との通信が切れたのは、彼自身のせいだと思って、一生けんめい直しているのだった。
もう一人の搭乗者たる帆村荘六は、さっき大きな声で、「魔の空間」へ近づいたと叫んだ頃は、しきりにさわいでいたが、いま見ると、彼は手帳を出して、その中に何か盛んに書きこんでいる。これまた山岸少年におとらぬ落着きぶりだ。
山岸中尉は、ほっと息をついた。いま部下の二人が、あんがい落着いていてくれることは、たいへんありがたい。いまのうちに、死の覚悟をといておこうと思った。中尉の観測では、自分たちの生命は、あと十五分か二十分ぐらいだろうと思った。
「総員集れ」
と、中尉が叫ぶと、山岸少年は、はっと顔をあげて、耳から受話器をはずした。その目は、さっと不安の色が走った。
「兄さん、どうしたんです」
「ばか。電信員、用語に注意」
山岸中尉は、こんな場合にも注意することを忘
前へ
次へ
全162ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング