等ニマッタク異状ナキニモカカワラズ、速度計ハ零ヲ指シ、舵器マタキカズ。ソレニツヅキ高度計ノ指針ハ急ニ自然ニ下リテ、ホトンド零ニモドル。気温ハ上昇シツツアリ……”
 そうだ。たしかに暑苦しくなってきた。
“……タダイマ外部ノ気圧計急ニ上昇ヲハジメ、早クモ五百五……”
 五百五というところで、竜造寺兵曹長の無電は切れたのだった。山岸中尉が外部気圧計の面をのぞくと、このときの艇内の気圧は五百七十ミリを指していた。なるほど竜造寺兵曹長の場合と同じだ。高度二万七千メートルなら気圧はせいぜい二十ミリぐらいであるはず、それが五百七十ミリを示している。これは高度二千メートル附近にあたる。
 大異変来る。ついに竜造寺兵曹長と同じ運命におちいったのだ。山岸中尉は大きく息をすいこんだ。
「ああ、『魔の空間』、ほんとうだったな」

   処置なし

 山岸中尉は、ついに操縦桿から手を放した。もうこのうえ操縦桿を握っていることが意味なしと思ったからである。
 繰縦桿を放しても、艇はすこぶる安定であった。山岸中尉は、こみあげてくる腹立たしさに、「ちえっ」と舌うちした。倒れた壁の下におさえつけられたも同様だ。
 そ
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