とえこれが怪雲だとしても、これくらいのものは体当りでぶち切ることができるかもしれないと思っていた。そこで彼は、全速をかけたままで、白い怪雲の壁をめがけて激しくどんとぶつかった。
いけなかった。それがひじょうにまずかった。速度が見る見るうちに落ちた。そしてついにとまってしまった。と思ったら、あろうことかあるまいことか、こんどはあべこべに後方へぶうんと艇が走りだしたではないか。
山岸中尉は、あぶら汗をべっとりとかいた。操縦桿だけは放さなかったが、艇はもう全く彼の思うとおりには動かなくなった。
(もう処置なしだ)
と、中尉は心の中で叫んだ。そのうちに艇は次第に安定を回復してきたように思われた。そこで中尉は、ふと計器盤の速度計に目をやった。とたんに彼は、
「あっ」
と叫んだ。速度計が零を指しているではないか。噴射機関に異状はないのに……。高度計はと見れば、いつの間にか零の近くまでもどっている。竜造寺兵曹長が消息をたつ、その直前に打った謎の無電と同じ状況ではないか。ああ、あの無電……。
“……高度二万八千メートルニ達セシトコロ、突然轟音トトモニハゲシキ震動ヲ受ケ、異状ニ突入セリ。噴射機関
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