が解剖をお引受けいたしましょう」
甲斐博士は、にっこりと笑った。
解剖が最後に残されたのであった。
きれいに水で洗われた怪物の死骸が、白い担架《たんか》の上から、解剖台の上にのせられた。
「おい。甲斐博士。ここで執刀《しっとう》するのかね」と、隊長が聞いた。
「はい。ここの方がよろしゅうございます。静かでもありますし、このとおり照明も十分できていますから……」と、甲斐博士が答えた。
「地上へ持って行こうじゃないか。解剖している途中で、臭気が発散すると、ここでは困るぞ」
「賛成ですな。くさくて息がつまるかもしれない。すでにこの死骸は十数日たっていますからな」と、隊員の一人がいった。
「では、そうしましょう」
甲斐博士は、すなおに隊長室戸博士の説に従った。怪物の死骸は、地上へ運ばれることとなった。それを聞いていた次長は、はっと顔色を変えた。今日はあいにく帆村荘六がこの席にいないが、彼はこの怪物をここから出すことをかたく戒《いまし》めて行ったのだ。そこで次長は前へ進み出て、そのことを注意した。
すると室戸博士は首を左右にふった。
「根拠がないね、この死骸を動かしてはいかんというのは
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