れた僕は、自分の生命を投げ出して一生けんめいになれる日本男児の仕事は、これだと気がついたのだ。見ていてくれたまえ。僕はこれから科学技術をどんどんおぼえていくよ。今に君をびっくりさせてやるから」
児玉法学士は元気のいい声で笑った。
「まあ、しっかり頼むよ。児玉君」
「うん、心配はいらん。今にして僕は気がついたんだが、日本人は、科学者や技術者にうってつけの国民性を持っていながら、今までどうしてその方面に熱心にならなかったのか、ふしぎで仕方がない。もっと早く日本人が科学技術の中にとびこんでいれば、こんどの世界戦争も、もっと早く勝利をつかめたんだがなあ」
「過ぎたことは、もう仕方がない。ひとつ勉強して、工学博士児玉法学士というようなところになって、僕を驚かしてくれたまえ」
「工学博士児玉法学士か。はははは、これはいい。よし、僕はきっとそれになってみせるぞ」
熱血漢の児玉法学士は、いよいよ顔を赤くして笑った。しかし、さすがの児玉法学士も、やがて彼が宇宙の怪物を相手に、法学士の実力を発揮して、たいへんな役をつとめようとは、神ならぬ身の知る由《よし》もなかった。帆村にしても、彼が児玉法学士を引張りこんだことが、一つの神助《しんじょ》であったことに、まだ気がついていないのだった。それはいずれ後になってわかる。
東の空が、うっすらと白みそめた。と、刻々と明かるさがひろがっていって、高い鉄塔の上から照らしつけている照明灯の光が、だんだん明かるさを失っていった。とつぜん喇叭《ラッパ》が鳴り響いた。総員整列だ。時計を見ると出発まで、あと三十分だ。
帆村たちは、地上指揮所の前に整列した。班長左倉少佐が前に立っている。一同敬礼を交《かわ》す。それから班長から、本日の宇宙偵察隊出発について、力強い激励のことばがあった。
整備隊長から、彗星一号艇、二号艇の出発準備がまったく整ったことが、班長左倉少佐へ届けられる。
班長はうなずいて、これから出発する望月大尉以下六名をさしまねいて、宇宙図を指《さ》しながら、更にこまごました注意をあたえた。また一号艇長の望月大尉と、二号艇長の山岸中尉との間に打合せが行われ、両艇は、なるべく編隊で飛ぶこととし、もし何か大危難《だいきなん》に遭遇したときは、一艇はかならず急いで地上へ戻ることとし、両艇とも散華《さんげ》するようなことはせぬ、そしてその場合、山岸艇が地上へ戻り、望月艇は奮戦を続けることにもきめられた。
午前五時。正確なその時間に、左倉少佐の号令一下、まず噴射艇彗星一号が、するどい音を発して、さっと空中にとびあがった。山頂の杉林の上を一とびに越えて、朝やけの空をぐんぐん上昇して行く。十秒後には、艇はもう噴射瓦斯を後へもうもうと、ふきだしていた。
無電報告が、彗星一号艇から来た。
「スベテ異状ナシ。総員士気|旺盛《オウセイ》ナリ」
かんたんな電文であるが、搭乗員も艇も、機関や機械類もすべて異状なしとあって、班長左倉少佐をはじめ地上員は大安心をした。
二十秒おいて、山岸中尉らの搭乗した彗星二号艇が出発した。これもうまくいって、みるみるうちに先発艇のうしろに追いついてしまった。北の鬼影山の頂の上空に、二つの艇は二組の尾をひきながら、すこしも狂わない調子で、ぐんぐん高度をあげていく。
異状なしとの無電報告が、二号艇からもやってきた。
左倉少佐は大満悦《だいまんえつ》に見うけられる。双眼鏡から目を放すと、室内へはいって来て、
「おい、通信長。テレビジョンをのぞかせろ」
と、テレビジョンの受影幕をのぞきこんだ。壁間には昼間もはっきり見える九個の受影幕が、三個ずつ三列に並んでいた。その真中の受影幕には、彗星一号艇二号艇が、画面いっぱいにうつっていた。
「窓のところへちょいちょい出てくる、この顔は誰の顔か」
と、左倉少佐が幕面を指した。
「これですか。これは児玉班員であります」
「ああ、児玉か。彼はあいかわらず、じっとしていられない男だな。しかし成層圏へ上ったら、空気と圧力が稀薄になるから、児玉も自然猫のようにおとなしくなるだろう」
成層圏《せいそうけん》征服
宇宙偵察隊の噴射艇二台は、引続き調子もよく、上昇していく。この噴射艇は、彗星号というその名にそむかないりっぱなものである。文字どおり彗星のように、空をきって行くのである。
噴射力が強いので、速度もすばらしく大きい。中でたいている噴射燃料というのが、特殊な混合爆薬で、これが燃焼して、すばらしく圧力の強い瓦斯を吹きだす。しかも噴射器の構造が非常にうまくできていて、最も速度が出るような仕掛になっている。
艇内は気密室になっている。しかも三重の気密室である。室内は、どんなに高度をあげても、気温や温度が大体高度三四千メートルと同様な状態に保たれ、
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