宙偵察隊をつくることに成功した。
 宇宙偵察隊だ。
 五台の噴射艇が揃った。これに乗って成層圏へ飛びあがり、場合によってはさらに高空へ飛び、偵察をやろうというのであった。
 そしてこの偵察隊がまっ先にやらねばならぬことは、行方不明の竜造寺兵曹長の安否をしらべることだった。
 班長左倉少佐が、ある日、明かるい顔をしてもどってきた。それをまっ先に見つけたのは山岸中尉だった。
「班長。いいお土産《みやげ》をお持ち下さったようですね」
「おう」
 少佐はにっこり笑って、帽子と短剣を壁にかけながら、明かるい返事をした。
「まあそこへ掛けろ。いや、望月大尉も呼んできてくれ。帆村君に児玉君もな」
 望月大尉は、やはりこの班員で、先任将校であった。これも戦闘機乗りの勇士で、左の頬に弾丸のあとがついている。
 山岸中尉は、さっそくその三人を呼んで来た。一同は、それと感づいて、みんな、にこにこしている。
 班長は集って来た一同をずらりと見渡し、
「みんなに報告する。噴射艇二|隻《せき》で、成層圏偵察の許可が下りたぞ」
 それを聞くと、一同の顔はぱっと輝く。
「彗星《すいせい》一号艇には、望月大尉と児玉班員と、川上少年電信兵が乗組む。二号艇には山岸中尉と、帆村班員と、山岸少年電信兵とが乗組む。目的はもちろん竜造寺機の調査にある。指揮は望月大尉がとる」
 班員は唇を深く噛《か》む。
「出発は明後日の〇五〇〇《まるごうまるまる》だ。すぐ用意にかかれ」この報告と内命に、一同は躍《おど》りあがらんばかりによろこんだ。
 ついに研究班の活動が始ったのだ。彗星一号艇と二号艇とに乗って、怪しい空間にとびこむのだ。彗星号という噴射艇は、これまで秘密にせられていた成層圏飛行機――というよりも、成層圏以上の高空にまでとび出せる噴射艇であって、むしろ宇宙艇といった方がよいかもしれない、これは偵察に便利なように作られてあったが、また同時に戦闘もできる。その外、万一の場合も考えて、特殊な離脱装置も考えてある、なかなかすぐれたロケット機だ。
 彗星号の形は、胴の両側に翼《よく》があり、その翼にはそれぞれ大きな噴射筒がついている。低空飛行の場合はこの形で飛ぶが、高度があがってくると、両翼は噴射筒とともにぐっと胴体の方によってきて、ちょうど爆弾のような形になるのであった。形を見ただけで、この彗星号がどんなにすごい性能をもった噴射艇であるかが察しられる。
 出発は明後日の午前五時。
 あと一日とちょっとしか時間がない。研究班は総員でその準備にとりかかった。噴射艇の出発地点というのが、○○航空隊のある村から、山道を五里ほどはいったところで、鬼影山《きえいざん》と、青葉嶽《あおばがたけ》との間にある、忍谷《しのぶだに》という山峡であった。

   決死偵察《けっしていさつ》に出発

 いよいよ宇宙偵察隊が出発する日が来た。その出発地点である忍谷では、夜あかしで準備がととのえられた。
 噴射艇の彗星一号艇と二号艇とは、射出機の上にのり、もういつでも飛び出せるようになっていた。
 この噴射艇は最新鋭のもので、特に宇宙飛行用に作ったものであるから、出発のときは、燃料や食糧をうんと積みこんでいるので、非常に重い。だからどうしても射出機を使わないと、うまいぐあいに出発ができないのだ。
 その射出機も、ふつうのものでは力がたりないので、忍谷で用意したのは、電気砲の原理を使った射出機だった。これなら十分に初速も出るし、また電気でとびだすのだから、硝煙《しょうえん》や噴射|瓦斯《ガス》のため地上の施設が損傷する心配もなかった。
 高い鉄塔の上から照らしつける照明灯は、地上を昼間のように明かるくして、どこにも影がない。蛾《が》の化物みたいな形の噴射艇の翼の下をくぐって、飛行服に身をかためた一人の男があらわれた。それは帆村荘六だった。帆村は腰をのばして、噴射艇をほれぼれと見上げる。
「じつに大したものだ。こんなすばらしい噴射艇が、完成していようとは思わなかった。これなら月世界くらいまでは平気で飛べるぞ」
 と、ひどく感心のていで独言《ひとりごと》をいっている。そのとき同じような飛行服を着た別の男が、こっちへ走ってきた。そして後ろから帆村の肩をぽんとたたいた。
「おお、帆村君。もうすぐ出発だそうだぜ」
 帆村がふりかえってみると、それは彗星一号に乗組む児玉法学士だった。
「やあ、児玉君」と、帆村は児玉の手をとり、しっかり握った。
「じつは僕は心配をしているんだ。宇宙への冒険飛行に、君のような法律家を引張り出して、さぞ君は迷惑しているのじゃないかと……」
「つまらんことをいうな」
 と、児玉法学士は途中で帆村のことばをおさえた。
「僕は君の好意に、大いに感謝しているんだ。君の好意で臨時宇宙戦研究班へ引張りこま
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