もそれを信じる中尉だった。しかしその報告から、帆村が引出した結論には、やはり半信半疑というところであったが、帆村から、こう叱りつけられると、すっかり参《まい》って、「よし、これからはもう疑いをはさまないぞ」と決心した。
 その手始めに、山岸中尉は決然として、こういった。
「帆村さん。私は司令に願って、明日、竜造寺兵曹長を救い出すために成層圏飛行をします」
「明日、あなたがですか」
「そうです。何かよくないことがありますか」
「まあ、それはおよしなさい」
「よせというのですか。なぜ……」
「行くなら、十分の用意をしてからのことです。三万メートルの高空において、優勢な敵と戦って、かならず勝つ準備が必要ですぞ」
「優勢な敵というと……。すると帆村さんは、やっぱり例の緑色の怪物のことを考えにいれているのですか」
 山岸中尉は、ようやく気がついたというふうであった。
「もちろんそうです。あの怪物のことを考えずして、どうして三万メートルの高空に着陸場を持つ、魔の空間が考えられましょうか。あの怪物のことを初めに知っていなかったら、私だってちょっと信じる気になれませんよ。宇宙戦争です。もうそれは始っているのです」
 帆村は宇宙戦争について、ゆるぎない信念を持っていたのだ。
「なるほどなあ」
 あの怪物と魔の空間とが関係があると考えると、高空三万メートルに着陸場があるということが、今までよりもずっと有りそうに思われてくる。
「山岸さん。急いで宇宙戦研究班をおつくりなさい。そして十分の準備をしてから、魔の空間を襲撃するのです。ただし研究班をつくるには、そうとうに大仕掛のものでなくては役に立ちませんよ」
 帆村は、いつになくおしつけるような口調で、このことを山岸中尉にいったのである。

   宇宙戦研究班

 山岸中尉は、その夜を帆村と語りあかしてつよい信念を得たようであった。
 すぐにも彼は、竜造寺兵曹長を救いだしに行きたかったけれども、帆村が、「兵曹長の一命はとうぶん大丈夫ですよ」というので、やっぱり十分に準備をしてからでかけることにした。
 山岸中尉は、翌日司令にいっさいをぶちまけて、宇宙戦研究班の編成|方《かた》をねがった。
 司令は驚かれた。しかし司令は、がんらい頭の明晰《めいせき》な人であったので、山岸中尉の話の中におごそかな事実のあるのを見てとり、中尉の願いをききいれた。司令は、上の人と相談を重ね、その結果、早くも翌々日には、臨時宇宙戦研究班というものが、この航空隊の中にできた。そして班長には、有名なる戦闘機乗りの大勇士である左倉少佐が就任した。
 班には班長以外に、四名の士官がつとめることになった。もちろん山岸中尉もそのひとりであった。
 またその外に、班員として若干名が採用されることとなり、帆村荘六もこれに加わった。それから意外にも、熱血児の児玉法学士も志願して、その一員にしてもらった。
 下士官が十名、兵員が八十名。
 山岸中尉の弟の山岸少年と、その友達の川上少年の二人が、これも志願して班員となった。二人とも電信が打てるので、通信を担当することとなった。
 この研究班の設立は、各方面へいろいろの反響を起した。
 国内では、これを待っていましたとばかりに歓迎する者もあったが、多くはこの奇妙な部門が、なんのことだかわからず、けんとうちがいのことをのべる者が少くなかった。
 一部にはつよい反対意見もあった。まだ敵アメリカを屈服させておらず、今もなおときどきアメリカ空軍が内地爆撃をやる有様である。そういう折から対アメリカ戦の結末をつけずに、宇宙戦の準備にかかるとは何事だというのであった。
 しかしわが大日本帝国が世界の安全をあずかる重大使命を有するかぎり、すすんで宇宙戦の準備をしなければならぬ責任がある。だからこの研究班の編成は、時局がらたいへん必要なものである。そういう正しい意見がだんだん国内に強くなっていった。
 国外では、この研究班の編成が、国内よりもずっと強くひびいたようである。各国は争って新聞にそのことを報道し、ラジオによって解説をこころみた。そして日本なればこそ、この困難なことをやりぬくであろうと信頼をよせた。
 盟邦《めいほう》諸国は、それぞれ全面的に、そのことについて日本に力をあわせ、迫り来《きた》ったわれらの大危難を退《しりぞ》けたいものだと、たいへん、もののわかったことをのべた。
 こうして臨時宇宙戦研究班の編成は、たちまち世界中に大きな波紋をなげたのであった。
 その間にも、山岸中尉と帆村荘六とは、この研究班を最初にいいだした関係から、非常にいそがしい毎日を送った。
 はじめの一週間は、夢のように過ぎた。しかしその間に研究班の形はできた。それにつづいて次の一週間、二人はあっちこっちと走りまわった。その結果、二人は宇
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