」は「奇妙な緑色の死骸」とよばれ、本部へ報告され、さわぎはだんだんに大きくなっていった。
さらに大勢の社員や、警官などが、第八十八鉱区の中におりていった。
奇妙な死骸のまわりには、勇気のある人たちが、入れかわりたちかわり集ったり、散ったりした。
「何者ですかなあ、これは……」
「何者というよりも、これは人間だろうか」
「さあ、人間にはちがいないと思いますなあ、手足も首も胴もちゃんとそろっているのですからねえ」
「しかし角《つの》が生えていますよ。角の生えている人間がすんでいるなんて、私は聞いたことがない」
「そうだ、角が生えている。これは私たちが昔話で聞いた青鬼というものじゃないでしょうか」
「なにをいうんだ、ばかばかしい。今の世の中に青鬼なんかがすんでいるものですか。君は気がどうかしているよ」
「でも、そうとしか考えられないではないですか。それとも君は、なにかしっかりした考えがあるのですか」
「そういわれるとこまるが、とにかく私はね、この人間が着ている鎧《よろい》をぬいでみれば、早いところその正体がわかると思うんだがね」
「鎧ですって。鎧ですか、これは。しかし、きちんと体にあっていますよ」
「きちんと身体に合っている鎧は、今までにもないことはありませんよ。中世紀のヨーロッパの騎士《きし》は、これに似た鎧を着ていましたからねえ」
「中世紀のヨーロッパの騎士の話なんかしても、仕方がありませんよ。ここはアジアの日本なんだからねえ。それに今は中世紀ではありませんよ。それから何百年もたっている皇紀《こうき》二千六百十年ですからねえ」
集った人々の話は、いつまでたっても尽きなかった。しかしだれひとりとして、この奇妙なる死骸の正体をいいあてた者はなかった。
本部でもこまった。警察のほうでも、同じようにこまった。こまったあげく、ようやくきまったことは、東京へむけてこのことを急報し、だれかえらい学者に来てもらうことと、警視庁の捜査課の腕利《うでき》きの捜査官にも来てもらうことであった。
さっそくこのことは、電話で東京へ通ぜられた。いきなりこの変な報告をうけた東京がわでは、やっぱり変な人が、電話口に出ていると思ったそうである。くどくどといくども説明をくりかえして、やっとわかってもらうことができた。
とにかくそれぞれのむきへも連絡して、できるだけ早く、東京から調査官をおくるから安心するように。それから奇妙な死骸のある現場はなるべくそのままにして、手をふれないようにせよと、東京がわから注意があった。
このような手配がすんで、鉱山の人々も、土地の警察も、ほっとひと安心した。
そこで人々の気持も、前よりはいくぶんゆっくりして来た。そのとき、ある人がきゅうに大きな声を出したので、まわりにいた人たちは、また何ごとが起ったかとおどろいた。
「そうだ。本社の研究所へ来ている理学士の帆村荘六《ほむらそうろく》氏にこれを見せるのがいい。あの人なら僕たちよりずっと物知りだから、きっと、もっとはっきりしたことが、わかるかもしれない」
「ああ、そうか。帆村理学士という名探偵が、うちの会社へ来ていたね。あの人は前に科学探偵をやっていたというから、これはいいかもしれない。もっと早く気がつけば、こんなにあわてるのではなかったのに……」
といっているとき、人々の中へぬっとはいって来た長身の人物があった。眼鏡《めがね》をかけ、顔色のあさぐろい、そして大きい唇をもった人物であった。
「ああ、みなさん。あの奇妙な死骸が、どうしてこんな深い地底にあるかということが、はっきりわかりましたよ」
彼は太い音楽的な声で、そういった。
あつまっている人々は、声のするほうをふりむいた。
「おお、帆村さんだ。帆村さん、いつのまにここへ来られたのですか」
と、一同はおどろいて、帆村の顔をうちながめた。
さてこの帆村理学士は、奇妙な死骸の謎について、いったいどんな科学的解決をあたえたのであろうか。かれはもういつのまにやら、しらべを始めていたのだ。
奇抜《きばつ》な推理
「いやあ、どうも少し早すぎましたが、あんまりふしぎな話を聞いたものですからね……」
と理学士帆村荘六は、ちょっときまりが悪いか、あとの言葉を笑いにまぎらせた。
「一向《いっこう》かまいませんよ。誰でもいいから、こんな気味のわるい事件は早く解決してもらいたいと思いますよ。帆村君は、どういう風に考えているのですか」
そういったのは、この鉱山事務所の次長で、若月《わかつき》さんという技師だった。この人は、年齢は若いが、技術にも明かるく、そして、ものわかりもよく、鉱員たちの信望をあつめている人で、この鉱山にはなくてはならない人物だった。
「僕の考えですか……」
帆村と若月次長のまわりに、皆が集ってきた。こ
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