発を応用した穴ほり道具を、なるべく使わないようにしながら進んだ。こうして進むうちにも、不安定な状態にある坑道は、いつ新しい落磐をおこすかもしれないので、そのときは強力な穴掘り道具を使う方針であった。
 およそ四時間もかかって、ようよう三人は第八十八鉱区の入口にたどりついた。
 たいへんうれしかった。
 しかしこれから先が問題である。働きなれたなつかしい鉱区の中は、いったいどんなになっているのであろうか。
 三人は、そこで持ってきた握飯《にぎりめし》をたべ、水筒から水をのんで元気をつけた。
 それからいよいよ中へ入っていったのである。
 ところが坑内は、意外にもきちんとしていた。もっともここはそうとう深いところでもあるし、地質もしっかりしているので、きちんとしていることがむしろあたりまえだった。だが地上のあのすごい光景にびっくりさせられた三人は、第八十八鉱区のこの無事なありさまが意外に感ぜられた。
 が、三人が、この鉱区の中央をつらぬく竪坑《たてこう》のところへ、横合から出たときには、思わずあっとさけんだ。
 いつもこの竪坑は暗かった。今は電灯もついておらず、さぞまっくらであろうと思っていたところ、その竪坑へ出ようとするところが、ぼうっと明かるかった。日の光が、どこからかさしこんでいる様子だ。それから三人はいそいで竪坑へ出た。そして上を見たのである。竪坑は明かるかった。上を見ると、盆《ぼん》くらいのひろさの空が見え、そこからつよく日がさしこんでいた。
「これはどういうわけだろう」
 と、金田はつぶやいた。
「竪坑はまっくらなはずですね。これは場所がちがうのではないでしょうか」
 と、川上少年鉱員がいった。
「いや、うちの竪坑にちがいない」
 金田はつよくいった。
「ああ、わかった。竪坑の上から爆弾が落ちて、天井《てんじょう》がぬけてしまったんだよ」
 と、山岸少年鉱員がさけんだ。
「そうだ。それにちがいない」と、金田がうなずいて、「それにしても、あんなに厚い山がふきとんで、竪坑の天井がなくなるなんて、すごい爆発だなあ」
 まったくものすごい爆撃をくらったものである。
 それから三人は、竪坑をおりることにした。前にはあった昇降機も見えなければ、それを吊っていた鋼索もないので、三人は持っていた綱をつなぎあわせ、それにすがって下へおりることにした。
 竪坑の底まで、そこからなお五十メートルばかりあった。
 先へ金田がおり、つづいて川上、山岸の順でおりた。
 竪坑の底も、やっぱり明かるかった。しかしそこには上から落ちてきた岩のかけらが、小さい山をなしていた。
 この小山は、一方がひっかいたように、岩のかけらがくずれて凹《へこ》んでいた。
 見ると、そこからくずれて、下へ向けてゆるやかな傾斜をもった坑道の中へ流れこんでいた。その下には最近ほりかけた一つの坑道があるのだ。そこは三人が働いていたところなので、どんなふうになっているだろうかと気にかかった。そこで三人はほかのしらべは後まわしにして、ざらざらすべる斜面を下へおりていったのである。
 奇妙な例の死骸は、その底において発見されたのである。大の字なりに上をむき、足を入口に近い方にし、頭は奥のほうに半分うずもれていたのである。
 三人がどんなにおどろいたかということは、三人とも気がついたときは地上を走っていたことによっても知られる。三人はいつどこをどうして地上にとび出したか、さっぱりおぼえがないといっている。

   謎《なぞ》をとく人

 息せききって、三人は本部へかけこんだ。そのとき本部につめあわしていた人々は、三人が気が変になったのではないかと思ったそうだ。
 顔色は死人のように青ざめて血の気がなく、両眼はかっとむいたままで、まばたきもしない。そしてしきりに口をぱくぱくするのであるが、さっぱり言葉が出ない。出るのは、動物のなき声に似たかすれた叫びだけであったという。
 それでも三人は、水をのませられたり、はげまされたりしてそれからしばらくして、気をとりなおしたのであった。そしてようやく三人が見た「地底の怪物」のことが、本部の人々に通じたのであった。
 その物がたりは、こんどは本部の人々の顔をまっ青《さお》にかえた。なかには、それはこわいこわいと思うあまり、見ちがえたのであろうという者もあったが、三人がくりかえしのべる話を聞いているうちに、その者もやっぱり顔色をかえる組へはいっていった。
 決死視察隊が編成された。
 ふだんから強いことをいっている連中が二十名、それに警官が二名くわわり、金田と二少年を案内にさせて、第八十八鉱区の底へおりていったのである。
 決死視察隊の一同が、そこで何を見たか、どんなにおどろいたかは、ここにあらためてのべるまでもあるまい。とにかく、その結果「地底の怪物
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