よっていずれかへ動き出し、あげくの果は、大きなものを動かします。電波操縦もこの類です。人体における神経と、筋肉の関係そっくりではありませんか」
山岸中尉は、帆村が後から後へとならべる例について、心から同感だとはいいたくなかった。しかし聞いているうちに、なんとなく金属も生きているらしい気がしてきた。帆村は一段と声をはげまし、
「地球以外の星には、ラジウムよりも、もっと重い金属があって、おそろしい放射能を持っているものがあるのです。そういう奴は、ラジウムよりもずっと高等な生物ですよ。高等金属といったのは、そういう物質を指すのです」といったが、山岸中尉がまだ知らん顔をしているのを見ると、帆村は別なことをいい出した。
「機長。この『魔の空間』が、この前白根村に墜落したときに、なぜ私たちの目には見えなかったのか、そのわけを考えてごらんになったことがありますか」この質問は、山岸中尉をひじょうにおどろかせた。
「えっ、この前『魔の空間』が白根村に墜落したって。そんなことが、どうして……」
大胆な推理
「魔の空間」と、白根村の怪事件とを結びあわせた、帆村荘六の大胆な説は、山岸中尉にとって、すぐには了解できることではなかった。
「まあ、ゆっくりお話しましょう。飛行楔の中で……」
と、帆村は山岸中尉と山岸少年をうながして、飛行機の中にはいった。三人はめいめいの座席をえらんで、そこに腰をおろした。山岸中尉は、魔法壜の口をあけて、残りすくない番茶を、疲れている帆村にあたえた。帆村は感激して、ほんの一口だけうけた。
「そこで白根村の怪事件のことですがね。歩いていた山岸中尉が、急に歩けなくなったというのは、あなたが『魔の空間』の壁にぶっつかったからですよ。あの壁ときたら、軟らかい硝子《ガラス》かゴムみたいに、いくら体をぶっつけても怪我《けが》をしないかわりに、どんなことをしても破れるようなことはないのです。そんなに丈夫な壁なのです」
帆村は手まねをまぜて、「魔の空間」のふしぎな性質について説く。
「あれが壁だとするとおかしいぞ。前方がはっきり見えたが、透明な壁だというのか……」
山岸中尉が、熱心に聞きかえす。
「そうです。もちろん透明の壁です。ですから『魔の空間』が前に落ちていても、それが見えなかったのです」
「そうすると、白根村に、『魔の空間』が落ちたとして、その空間の中にはなにもはいっていなかったんだろうか……」
「それはもちろんはいっていました。『魔の空間』を動かす一種のエンジンも備えつけてあるし、またミミ族も何十名か何百名か、その中にいたにちがいありません」
「それはおかしいぞ、帆村班員」
と、山岸中尉は目をかがやかし、
「その空間に、エンジンだの、ミミ族たちがいたのなら、横からすかしてみて、かならず形か影かが見えるはずである。しかし私は、そんなものを見なかった」
山岸中尉のいうことは、もっともに響いた。白根村に落ちた「魔の空間」が、空《から》っぽであれば、透きとおって見えるかもしれないが、その中にエンジンがあり、ミミ族がいたのなら、かならずその形か影が見えるはずだ。これには帆村も答弁することができないだろうと思われた。だが帆村は答えた。
「ところが、実際はエンジンもあり、ミミ族もいたのです。しかしそれがあなたがたの目に見えなかったというのもほんとうのことでしょう。これにはわけがあるのです。むつかしい理窟ですが、ぜひわかっていただかねばなりません」
と、帆村は力をこめていうと、山岸中尉と山岸少年の顔をじっと見つめ、
「そのわけというのは、そのとき、『魔の空間』はひじょうに速い振動をしていたために、人間の目には見えなかったのです。たとえば飛行機のプロペラは、とまっているときはよく見えます。ところがあれが回転をはじめると、私たち人間の目には見えなくなるでしょう。つまり、あまり速く動いているものは、人間の目には見えないのです。『魔の空間』は、プロペラの回転による運動どころか、もっとはげしい速さで動いているのです。一種の震動であります。あまり速く震動しているために見えないのです。『魔の空間』の壁も、エンジンも、ミミ族も、みんなこのとおりのはげしい震動をしているので、あなたがたの目には見えなかったのです。これでわけはおわかりになったでしょう」
帆村荘六は、そういって二人の顔を見た。
目にもとまらぬほど速く動き、あるいは回転し、あるいはまた震動するものが、人間の網膜《もうまく》にうつらないということはほんとうだ。帆村がいうのには、「魔の空間」というものは、おそろしくはげしい震動をしている物体であるから、目には見えず、それで透《す》いて見えるのだというのだ。自分の目の前に自分の指を立ててみる。指はよく見えている。ところがこの指を左右
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