のようだった彼の顔色が目の下あたりからぽうっと赤くなりはじめ、彼の目が生々と光ってきた。
「どうした、帆村班員」
三度、山岸中尉は帆村にきいた。
「ああ、機長……」
帆村は山岸中尉の顔を仰ぎ、それから山岸少年の方を見、なおあたりをぐるぐると見廻した上で、ほっと息をついた。
「遅かったね。なにをしていたのか」
「はあ」と、帆村は喉《のど》をなでながら、
「できるだけ『魔の空間』を偵察してきました。報告することがたくさんあります。第一に、生きている竜造寺兵曹長の姿も見えました」
「えっ、竜造寺に会ったと……」
「そうです。兵曹長は、狭い透明な箱の中にとじこめられています。胸に重傷しているようです」
「ふうん。助けだせないか」
「いま考え中です。話をしたかったが、監視が厳重で、そばへよれませんでした」
「そうか。ではおれが助けにゆく」
「まあ、お待ちなさい、機長。まだお話があるのです。彗星一号艇の乗組員に会いました」
「えっ、一号艇は無事か」
「艇は無事だそうです。私は児玉法学士に会って、それを聞きました」
「望月大尉は健在か」
「はい、大尉も、電信員の川上少年も、軽傷を負っているだけで、まず大丈夫です。児玉法学士は大元気です。彼は緑鬼どもと強い押問答をやって、待遇改善をはかっています。私は彼とよく打合わせました。われわれは、けっして緑鬼どもに頭を下げないことにしました。そして彼らの弱点をついて、あべこべに彼らをわれらに協力させるのです」
「できるか、そんなことが」
「それについて児玉法学士は、一つの方法を考えていました。彼はきっとうまくやるでしょう」
「どういう方法か」
「要するに彼らを説き伏せ、まっすぐな道を歩かせるのです。しかし、もしもこのことが不成功のあかつきには、われわれは即刻この『魔の空間』から引揚げないと危険なのです」
「それはどういうわけか」
「これは私の調べた結果ですが、ミミ族という生物は、われわれ人間とはぜんぜんちがった先祖から生まれたものです。ですから、性格がすっかりちがっているのです。あのココミミ君は、もっとも人間に近い性質を示していますが、あれは人間学を勉強して、あれほど人間に近い性質を示すようになったのです。しかしミミ族は、生まれつきひじょうに残酷な生物です。人情などというものはなく、まるで鉄のように冷たい生物なのです。そのかわり正直この上なしです。ほしいと思うものにすぐ手を出して取り、強い者には頭を下げ、弱い者はすぐ殺すのです」
「どうして、そんなことがわかったのか」
「私が見てきたのです。山岸中尉、彼ら緑鬼は、動物の一種でもなく、また植物の一種でもないのですぞ」
「なんだって」山岸中尉はおどろきのあまり、思わず大きな声をたてた。
「君は途方もないことをいうね。生物といえば、動物と植物にきまっている。それ以外の生物というのがあるだろうか」
しかし帆村は言った。
「そういう理窟は、地球の上だけにあてはまるのです。他の世界へ行けば、かならずしもあてはまらないのだと思います」
「すると、いったいどういう種類の生物だというのかね、あのミミ族は……」
山岸中尉は、こめかみに指をたてて、むずかしい顔をした。帆村のいうことがわかりかねるのだ。もちろん誰にだってわかるはずはない。
「まだ判定の材料がすっかり集っていないから、しかとはいえませんが、私の考えるところでは、緑鬼ミミ族は、高等金属だと思います」
「なに、高等金属。わははは。君は気がどうかしているよ。わははは」山岸中尉は大声で笑った。帆村は、かくべつ腹をたてた様子もなく、真面目な顔をしていた。そして中尉の笑いのしずまるのを待っていた。
「金属が生きものだ。ふつうならば、そんなことを考えないよ。わははは。帆村君、しっかりしてくれよ」
中尉の笑いはなかなかとまらなかった。そこで帆村は、やむなく口を開いた。
「ちょっと待ってください。地球の上で、金属は生物だなどといっては、たいてい笑われるでしょう。しかし他の世界へ行けば、金属が生きものである場合があるのです」
「ばかばかしいことだ。それは暴論だよ」
そういわれても、帆村はひるまなかった。
「地球上に存在する金属の中にも、ほんの僅《わず》かの種類ですが、生物らしき現象を示すものがあるのです。それを言いましょう。ラジウムはアルファ、ベータ、ガンマ線を出して年齢をとり、ラジウム、エマナチオンになり、やがては鉛となります」
「そんなことが生物と言えるだろうか」
「生物に似ているではありませんか。また別のことを取上げましょう。無機物の集合体であるところの電波発振器は、空間へ電波を発射します。これは人体における脳細胞の、活動のときにともなう現象と同じです」
「それはこじつけだ」
「継電器はどうです。僅かの電気的刺戟に
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