と、山岸中尉は待ちかねていた。兵曹長を救うことはわけなしだと聞いて、中尉のよろこびは大きかった。
 そこでいよいよ脱出準備にかかることとなったが、ミミ族がここへ食事をはこんでくるのが十三時だから、そのすぐ後で、爆弾を正面の壁のところへはこぶこととした。
 あとはなにを何時何分にすると、くわしい時刻表をこしらえて、三人は手わけしてそれを持った。
 ミミ族はいつもの三人づれで、十三時にちゃんと食事を持ってきて、すぐ帰ってしまった。なにも知らないらしい。
 いよいよ決行だ。
 うまく脱出に成功するか、それとも押しもどされるか、こなみじんになるか。
 今となっては一ばん気になることは、噴射艇のエンジンをかけて、燃料をたきはじめてから、全速力で出発するまでの時間のことだ。これはどんなに手際《てぎわ》よくやっても三十秒はかかるのである。この三十秒のうちに、ミミ族に発見され、そして出発をさまたげるような手段をとられたら、せっかくの計画もだめである。
 が、そんなことを、いまさら心配していてもしようがない。こうなったら、腹をきめて、さらりとやってのけるのがいいのだ。
 帆村は山岸中尉とともに力をあわせて、爆弾を壁のところへはこんだ。爆風が艇の方へこないように、不要の機械を置いて防いだ。
 山岸少年は、ひとりで竜造寺兵曹長を救いだしにいった。それが帰ってくるころには、爆弾は全部はこびおわるはずであった。
 誰が時間をまちがっても、この脱出計画はうまくいかなくなるのだ。
 だが幸いにも、万事すらすらといった。
 山岸中尉と帆村が、最後の爆弾をかついで艇を出発するとき、少年は竜造寺兵曹長をつれてもどってきた。
「あ、山岸中尉……」
 竜造寺兵曹長は、山岸中尉の姿を見ると、感きわまって、足をひきずりながら駆けよろうとする。それを中尉は、叱るようにして押しとどめ、帆村をうながして爆弾をかついで走りだした。
 爆裂の時限をちゃんとあわせた。あと一分五十秒で爆裂するのだ。
 一分二十秒で駆けもどって機内にはいり、十秒で扉をとじ、エンジンの燃料に点火する。あと二十秒でエンジンは全速力を出してもいいようになる。と、爆裂が起る。すぐ出発だ。穴の中をくぐりぬけるまでに、時間は二秒とかからないであろう。これが計画だった。
「それ、急げ」
 山岸中尉は、帆村の腕をひっぱるようにして、艇の方へ駆けだした。
 
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