えで、ここを脱出しましょうか」
「いや、それはいかん。それを知ったら、ミミ族はどんな手段をとっても、君たちをここからださないよ。無断でいくのがよろしい」
 さすがに望月大尉であった。ちゃんとなにもかも見とおしていた。

   脱出決行

 一方、竜造寺兵曹長を救いだすことであったが、これは帆村と山岸少年の二人が力をあわせて決行した。
 竜造寺兵曹長は、一人牢の中にいれられていた。そのわけは、兵曹長はここへとびこむと、たいへん怒って、ミミ族を相手にさんざんあばれたのだ。それがために兵曹長は、重傷を足に負い、出血多量で人事不省になってしまった。そこでミミ族は、ようやく兵曹長をかついで、一人牢の中へ移すことができた。
 帆村は、竜造寺兵曹長の一人牢のあるところを知っていたので、そこへ山岸少年をつれていった。
 兵曹長は、いきなり日本人の顔が二つ現れたのでおどろいた。しかもよく見ると、その一人は帆村であったし、もう一人は自分の上官の愛弟であったから、夢かとばかりよろこんだ。
 だが双方は、手を握りあうわけにいかなかった。その間には透明な壁があって近づくことができなかったのである。しかも一方から声をかけても、相手にとどかなかった。密閉した壁が、それをさまたげているのだ。
 帆村は、かねてそれに気がついていたので、山岸少年をつれてきたのだった。少年は、帆村のいうことを、手旗信号でもって兵曹長に通じた。もちろん旗は持っていないから、手先を動かして信号したのである。
 兵曹長の目はかがやいた。兵曹長はさかんにうなずきながら、やはり手を動かして、返事を信号にしてよこした。
 こうして双方の連絡はついた。
 兵曹長は、この牢の外側に、錠《じょう》がおりているらしいと言った。もちろんそれは透明だから見えなかった。しかし兵曹長がその位置を教えたので、帆村は手さぐりで、そのありかを探しあてた。幸いにも、それは外側からつっかい棒のようなものをしてあるだけのことであったから、帆村はすぐはずすことができた。大成功である。神の御加護にちがいない。
 が、兵曹長を今ここからだすことは、ミミ族に見つかって、脱出のさまたげになるから、もうしばらく中にいてもらうことにした。そして帆村は、脱出の用意ができたら、かならず迎えにくるからと、兵曹長に言って、山岸少年とともにそこを離れた。
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