カンバスを蔽《おお》ってある。このカンバス、方々しみだらけなのはいうまでもない。卓子の数はやっぱり三つにしてある。
「ねえ岸君。君はおれが気が違っていたと思っているのだろう。ねえ、本当にそう思っているだろう」
 僕はどっちともつかず、にやにや笑っているほかなかった。
「やっぱりそうだ。常識家の君でさえそう思っているんだから、ミミのやつなんかにいくら話してやっても分らないのは無理もないんだ」
 と、氏は大きな掌で自分の膝小僧を掴み、空気ハンマーのように揺すぶった。が、そのあとでまた気を変えたのか、僕の方へすり寄ってきて、
「ねえ、岸君。おれは本当のことをいうが、このベランなる者は初めから、これから先も気が変になってなんぞいないのだよ」
 と、氏は指先をぴちんと音をさせ、
「おれは常に正当なることを喋《しゃべ》っている。そういうと君はまた笑うだろうが、それはおれがこのロケットから下ろして地球へ戻してくれといっていたのを思い出すからだろう。それはすこしも笑うべきことではない。おれは今そのわけをお話しよう」
 ベラン氏は、僕の腕を掴んで更に身体をすり寄せた。が、そのとき僕の顔をしげしげ覗きこん
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