《おびただ》しい棺桶の列と家具の流れ。そのあとにぽつんぽつんと、落葉のように身体を曲げながら人間が続いていく。彼らは、艇側を離れると、何かを掴もうとするように手足をやけにばたばたさせるが、しばらく経つと四肢をぴんと張って、奴凧《やっこだこ》のような恰好になり、それから先は板のように硬直して空間をしずかに流れていくのだった。
「……十五、十六、十七……」
 と、魚戸は数を数えている。捨てられゆく発狂者を数えているのだろう。
 僕は魚戸のように落着いていることができず、その場にぺったり坐って、両腕の中に頭を抱えた。
「二十一、二十二、二十三……」
 魚戸は数え続ける。僕は気の毒なベラン氏がその中に加わっていないことを一生けんめい祈り続けた。
「……三十七、三十八、三十九。可哀そうに、みんなで三十九人だ。三十九人も捨てられてしまった」
 もう駄目だ。可哀想なベラン氏よ。僕は口の中で、ベラン氏の冥福を祈った。そして頭をいよいよ床にこすりつけた。そのとき急に自分の身体が……いやその部屋がひどく揺れだした。そして今まで聞いたことのない激しい物音が、僕をおどろかした。今にもこの部屋が裂けてしまうので
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