、そのくらいでいい」僕には、はっきりしたことが嚥みこめなかった。「それで、それはうまく成功する見込みかね」
「今やっている最中だ。はっきり分るのは、もうすこし経《た》ってだ。おお、卓子や長椅子を放り出している。艇長は、最後には、艇内にいる三十八人の発狂者を投げ出す決心をしている」
「三十八人の発狂者を……」
 いつの間にそんなにたくさんの発狂者が出たのであろうか。僕は、ベラン氏のことを思い出した。
「それは人道に反する。発狂者とて、まだ生きているのではないか。生きているものをむざむざと……」
「待て。リーマン博士の考えはこうなんだ。もしも平衡点離脱に成功しなかったら、本艇の乗員三百九十名の生命は終焉《しゅうえん》だ。そればかりではない。折角の計画が挫折することは人類にとって一大損失だ。迫り来る地球人類の危機を如何にして防衛すべきかという問題の答案が、又もやこれから十何年も遅れることになる。それは思っても由々《ゆゆ》しきことだ。三十八人の発狂者を捨てるくらいは、小さい犠牲だと」
「そういわれると、そうではあるが……」僕は途中で息をついて「しかし僕はベラン氏の身の上を考えさせられるのだ。ベ
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