》りつつあったとき、遽《あわ》ただしくイレネが入ってきた。
「みなさん、お食事中ですが、至急おしらせして置かなければならないことがありますので、お邪魔《じゃま》に伺いました」
 と、イレネはいつになく慇懃《いんぎん》に挨拶をした。
 至急おしらせのこととは、何であろうか。僕たちはフォークとナイフを下に置いた。しかしイレネは、みなさんそのまま食事をお続け下さいともいわず、用件のことを話した。
「お気付の方もあることと思いますが、昨夜から本艇はすこし取込んでいます。艇員たちが忙しく通路を走ったり、物を搬《はこ》んでいるのをごらんになった方もあろうと思います。事の起りは、本艇の針路が一昨日あたりからだんだんと自由を失ってきたことにあります」
 イレネは、言葉を切って、唇をふるわせ、
「つまり本艇は、好まざる力によって、或る方向へ引かれつつあります。恰《あたか》も流れる木の葉が渦巻の近くへきて、だんだんとその方へ吸いよせられていくように……」
「宣伝長。事実を率直にぶちまけてもらいましょう。その方がいい」
 僕はイレネが事件の本態にふれるまで温和《おとな》しく待っていることはできなかった。イレ
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