来る。参考のために、君もやってみるかね」
 奇妙なことを魚戸の奴はいいだした。
「化物屋敷だねえ、そうなると……」僕は、ぞっとしていった。自然現象の驚異に対しては、従来あまり大胆になれない僕だった。
「下手をやると、本艇はうごきがとれなくなる虞《おそ》れがある。行動の自由をうしなって、前進もならず後退もならず、宇宙に文字どおり宙ぶらりんになるのだ。力の無いものは、永遠にそこに釘づけのようになる。但し地球と月の運行によって空間を引摺られていくには相違ないが、しかしもはや地球の方へ退《さが》ることも、月の方へ進むこともできなくなるのだ。やがてなにか君を愕《おどろ》かすことがやってくるかもしれない」
「あんまり真面目くさって、僕を脅すなよ。ひとのわるい」
 僕は悪寒《おかん》に似たものを感じた。
 それから四五日すると、誰も彼もが、急に足許がわるくなったように、床の上でつるりと滑ってはつんのめることが殖《ふ》えた。僕は一日のうち七回もころんだ。壁や卓子《テーブル》に頭をぶっつけること五回に及んだ。或るとき、ころんで起き上ったところへ、ちょうど魚戸がはいってきて、僕と視線が合った。
「おい魚戸
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