ネは冷たくいって、部屋の扉を閉めた。彼女のお腹《なか》は、相当目につくようになった。
「宣伝長の役柄は大切だ。ヒステリーにさせちゃ駄目じゃないか」
 と、僕は魚戸にいった。
「ヒステリーだって。とんでもない。なんでイレネがヒステリーなものか。艇長の命令を厳格に遵守《じゅんしゅ》しているだけだよ」
 魚戸は弁解していった。
「フランケさん。リーマン艇長にはうるさい政敵があるんでしょ」
 ミミが訊《き》いた。フランケはワグナーの方へ頤《あご》をしゃくりながら、
「政治方面のことは、ワグナー君を措《お》いて論ずる資格ある者なしですよ」
「あらワグナーさんが……。お見それしていましたわ。あんまり普段|温和《おとな》しくしていらっしゃるので、学芸記者かと思っていましたわ」
 と、ミミはちょっと首をかしげてみせて、
「ではワグナーさんの前にひれ伏《ふ》して、お教えを乞い上げますわ」
 ワグナーは、苦しそうな咳払いを二つ三つやってから、
「われらのリーマン艇長の敵は、むしろ国内にありといいたいのです。彼等は、表面はすこぶる手固いように見える、いわゆる自重派《じちょうは》です。だが、リーマン博士にいわ
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