真夜中午前二時だと示達《じたつ》された。あまりに早急な出発であるから、僕はいささか未練がましく延期を求めたが、博士は気の毒そうな顔で首を左右にふった。
「この機密が漏洩《ろうえい》することを極端におそれるのです。さっきも念を推しておいたが、このことは誰に対しても厳秘《げんぴ》を守っていただきたい。日本人の貴方ゆえに、充分信用してはいるが、これはわれわれの任務の成否に関する重大な岐路となるのでねえ」
「大丈夫ですよ、そんなこと……」
 僕はそういわざるを得なかった。「非常な超冒険旅行」に出るということだけではどんなことをするのか分らないのに、そのことさえも厳秘だというのである。リーマン博士のそのときの硬《こわ》ばった顔付、額にねっとりと滲《にじ》み出たその汗から見て、博士はたいへんな責任を背負っていることが分った。
 それにしても、まことに唐突《とうとつ》の出発である。いくら僕みたいな人間でも、このベルリンにあと十数時間しかいられないのだとわかると、周章《あわ》てざるを得ない。
 僕は町へ出て、生活必需品の買い集めに狂奔する決心になったが、いよいよそこで歯刷子《はブラシ》はじめ二三の品物
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