中を歩きまわった。
「こいつはたいへんだぞ」
 何十分間、歩き続けたか、僕は憶えていない。とうとう腰が痛くなって、椅子にどっかと腰を下ろしたとき、僕はようやく頗《すこぶ》る恵まれたる自分の使命に目が覚めた想いがした。
「そうだ。この艇内に十五ヶ年起き伏しすることは、そう悪くないことだぞ」
 僕はそれ以来、人が変ったように朗《ほがら》かな気持で生活することが出来るようになった。そのときは、その足で、記者|倶楽部《クラブ》へ出かけていったものである。
 倶楽部は、僕の外の全員が集って、盛んに大きな声で喋《しゃべ》っていた。喋るというよりは、喚《わめ》き合っているといった方が適当であろう。
「……火星人の外の生物なんて、絶対に考えることが出来ない。艇長にもう一度警告しないでは居られぬ。警告することは、僕らの権利だからねえ」
 ベラン氏が、両手を頭の上までさし上げ、真赤《まっか》になって喚いている。その相手だと見えて、氏の前にいたフランケ青年が、端正《たんせい》な顔をあげていった。
「警告なさるのは自由だが、しかし艇長の信念を曲げさせることは出来ませんよ」
「何でもいい。僕は警告するといったら
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