らしい発見だ。そういうことなら、なにも冒険をやって、絵里子を宇宙に飛ばさないでもよかったのだ。ああもう時すでにおそしだ」
 絵里子?
 僕は博士の言葉を聞きとがめた。
「博士、くわしくいってください。絵里子をどうしたというのですか。――博士、さあいってください。なぜあなたは黙っていられる――」
 博士は僕の顔をしばし無言のままみつめていた。やがて博士は慄えをおびた声で、
「絵里子は、いまごろ火星へついているだろう。わしは絵里子に命じ、自分の研究力の足りないところを、火星へ調査にやったのだ。絵里子は一連の電波となって宇宙をとんでいったよ。わしはあまりに成功を急ぎすぎた。それがよくなかったのだ。君にも絵里子にもすまないことをした」
 といって僕の前に頭《こうべ》を垂れた。



底本:「十八時の音楽浴」早川文庫、早川書房
   1976(昭和51)年1月15日発行
   1990(平成2)年4月30日2刷
入力:大野晋
校正:しず
2000年2月2日公開
2000年6月30日修正
青空文庫作成ファイル:
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