たぶなんか見えない。ぺちゃんこになって顔の横についているだけだ。
 ――と、こう書いてくると、諸君は、おばけを思いだすかもしれないが、しかしほんとうはそんなものではない。これは、ずっと後にそう思ったことであるが、かれはどこかキューピーに似ているところがあり、子ども子どもしていた。ことに血色がよくて、さくら色で、すきとおるような肌をもっている、そしてつやのある海水着みたいなもので胴のあたりをつつみ、腕や足は、赤んぼうのそれのようにふとくみじかく、かわいく、色つやがよく、ぶよぶよしているように見えた。
 だが、わがポコちゃんにとっては、この相手はやはり、きみがわるかった。いくらかわいくても美しくても、あたりまえの人間とちがっているので気持がよくなかった。その大きな目玉にみすえられると、ポコちゃんの背すじが氷のようにつめたくなり、ぶるぶるとふるえてくるのだった。いったいこの怪物――といっておこう。だってどう見ても人間じゃないんだから――その怪物は何者であろうか。
「気をしずめなさい。起きてはよくない」
 その怪物は、ポコちゃんのからだをおさえつける。そのときであった。ポコちゃんは新しいおどろ
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