」
「ははあ、あなたがたもやっぱり原子力を利用されますかね」
「原子力利用は、われわれ星人の方が地球人類よりも、やく百年前にはじめました」
「百年前ですか。ずいぶん前のことですね」
「いや、百年なんか、ほんの短いものだ。地球人類よりも五万年もさきに生まれたわれわれ星人が、原子力を利用することでは、人類よりもわずか百年しか先んじなかったことを、むしろはずかしいと思いますね」
教授は、地球人類に敬意を示しているようだ。
そのときポコちゃんは、重大なことを思いだした。
「もしもしカロチ教授。ぼくの仲間の千ちゃんを知りませんか、山ノ井君のことですがね。ぼくと一しょにカモシカ号というロケットに乗って、このジャンガラ星の上に不時着したはずなんですが……」
教授はしばらくだまっていた。その末に、つぎのようにこたえた。
「山ノ井は悪い人間だ。かれは、いま追跡されている。まだつかまらない」
なんという意外な話だろう。ポコちゃんはあきれてしまって、すぐには口がきけなかった。なぜ千ちゃんは悪人だと思われているのか。
カモシカ号のさいご
「なぜです。どうしたというんです。千ちゃんはどんな悪いことをしましたか」
ただ山ノ井少年にたよる気持でいっぱいの川上ポコちゃんだった。そのなつかしい友の消息がわかったのはうれしいが、この星人たちから悪人だと思われているとは、なんという残念なことだ。
このジャンガラ星から脱出するのには、千ちゃんがいてくれて、二人で力をあわせるのでなければ、とても成功はのぞめない。ことに機械学や天文学のことになると、千ちゃんがくわしいので、ぜひいてもらわないと困る。その千ちゃんが、ジャンガラ星人に追われているとは、なんということだ。
「ああその……つまり山ノ井なる地球人は、貴重なる多数の生命をうばった、にくむべき凶悪犯人《きょうあくはんにん》である。しかもいまなお、かれは暴行をはたらいている。かれのためにうばい去られた生命は、ますますふえつつある。……どうです。なんとポコちゃん、あの人間は凶悪なるやつではありませんか」
カロチ教授から聞いた話は、川上にとってはまったく意外だった。あのおとなしい千ちゃんが、そんなひどい人殺しをするとは、どうしても考えられないのだった。
「ほんとうですか、それは……」
「もう何もかも君に話します。まったくほんとうなのです。悪人山ノ井はとらえられた上、極刑《きょくけい》に処《しょ》せられるでしょう」
極刑だって、極刑といえば死刑だ。ああ、、それはたいへん。いちばんの仲よし、そして二人で力をあわせてこの天のはてまで旅をつづけてきたのに……。千ちゃんを死刑台へ送ることはできない。なんとかして助けたいものだ。
「ぼくたちが乗ってきた宇宙艇カモシカ号は、いまどうなっていますか」
川上は、教授のへんじはどうであるかと胸をおどらせた。
「カモシカ号は、空から落ちてくる前から火を発していたが、地上にはげしくつきあたると同時に、すっかり、ほのおにつつまれ、みるみる焼けてしまったですよ」
「ええッ、すっかり焼けおちましたか」
「火が早くて消すことができなかった。きみと山ノ井を救い出すのが、ようやく、まにあったというわけです」
「山ノ井も救いだされたのですか」
「そうです。しかしかれは、きみのようにけがをしていないから、われわれが救い出すと、すぐ逃げてしまったのです。林の中へね」
「はあ、そうですか。なぜ逃げたのかな」
「逃げることはないと思います。われわれに感謝をしていいはずです。ところが、そのまま逃げてしまった。そして暴行をはじめた」
「どうもわからないなあ。なぜ千ちゃんがそんなことをしたのか」
ひょっとすると、千ちゃんは気が変になったのではあるまいか。川上はそう思って身ぶるいした。
「君たちの乗ってきた乗物の残骸《ざんがい》は、こっちの方角にあります。あの道を行って丘を二つほど越したところです。だいたいいまわれわれが立っているむこうがわ[#「むこうがわ」に傍点]になります」
教授の指さしたのは左であった。噴気孔《ふんきこう》が立っているところと九十度ほどちがう。
「カモシカ号の残骸は、どんなになっていますか。すこしは形がのこっていますか」
「全体は、平《ひら》ったく地にはりついています。そしてところどころこぶ[#「こぶ」に傍点]のようにもりあがっていますね。みんなまっ黒こげですよ」
なさけないことを聞くものだと、ポコちゃんは思わずためいきをつく。
「ふうん」
「お気のどくですね」
「カロチ教授。ぼくをそこへ案内してくださいませんか。カモシカ号の残骸をとむらいたいと思いますから」
「よろしい。すぐ行ってみましょう」
「でも遠いのでしょう。どのくらい時間がかかるんですか」
「そうですね。君
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