まだに宇宙をふらふら迷子になってとびまわっているという、きみょうな星なのさ」
カロチ教授の話は、じつにかわった話であった。感心してしまったポコちゃんは、声も出ないで教授の異様な顔を見つめている。その教授は、話をするとき手をさかんに動かす。ことに第三の手――つまり背中からはえている手を、風に吹かれているのぼり[#「のぼり」に傍点]のように休みなく頭の上や顔の前に動かして語る。
「それはそれとして、われわれ星人のことだが、今もいったように、われらの先祖は約三十万年前に地上へ姿を現した。君たちより約五万年は早いわけだ。われわれの先祖が出る前は、海にすんでいたんだ。われらの先祖は海からはいあがって、陸上で生活するのを主とするようになった。そのころ、われわれにはこの第三の手が出来ていたんだ。これは背びれ[#「びれ」に傍点]から進化して、こんな手になったんだよ」
そういってカロチ教授は、第三の手を伸び縮みさせながら、おもしろそうに動かしてみせた。そしていった。
「君たちは、こんな便利な手を持っていないので、まことに気のどくだね」
ポコちゃんは、かえすことばもなく、カロチ教授の前にすくんでいる。
いよいよきみょうなジャンガラ星である。つぎはどんなことにおどろかされるのだろうか。星人はどこまで人類より高等なのであろうか。ポコちゃんは、どんなめにあうか。千ちゃんはどうしているのか。
すごい計画
ポコちゃんの川上一郎と、ジャンガラ星のカロチ教授とはかたをならべてあるいたが、そのうちに二人は、小高い丘をのぼりきった。そこでポコちゃんは、はじめてお目にかかる、いようなジャンガラ星の風景におどろきの声をあげてしまった。
「やあ、すごいなあ。地平線があんなにまるくまがってらあ」
なにしろ小さいジャンガラ星のことであるから、丘の上に立つと、星が球形《きゅうけい》になっているのがわかるのだった。りくつから考えるとあたりまえのことだが、じっさいにそれを目で見ると、きみょうなながめであった。シャボン玉の上にのっているような気がする。
地形《ちけい》は起伏《きふく》があり、多くは、れいのタンポポみたいなふしぎな木がむらがって樹海《じゅかい》をつくっている。その間に、ハチの巣のような家がてんてんと散らばっている。おとぎの国へきたアリスのような気がするポコちゃんだった。
右手よりに、タンポポの樹海のこずえ越《ご》しに巨大なラッパの頭のようなものが大小十何個、ぬっと出ている。まん中にあるものがいちばん太く、そのまわりに並んでいるものは外がわへいくほど細くなっている。ラッパだろうか。いやあんな大きなラッパがあるものか。では、煙突であろうか。煙突にしては、形がへんだし、あんなに一つところにあつまっている煙突なんて話に聞いたことがない。まるで、キノコ[#「キノコ」に傍点]がかたまってはえているように見えるそれは、まぶしく金色に光っている。
「あれは何ですか、カロチ教授」
川上は、そばに立っている教授にきく。
「ああ、あれですか。あれはいま建設中の噴気孔《ふんきこう》です」
教授は、大きな目玉をぐるっと動かして川上の方をみる。
「噴気孔ですって。それは何をするものですか。煙突ではないのですか」
「煙突ではない。噴気孔というのは、あそこから強いガスをふきだすのです」
「なんのためにそんなことをするのですか」
ロケットじゃあるまいし、ガスを空へふきあげてどうするのであろうか。むだではないか。
「ロケットというものを知っているでしょう。あれですよ」
教授のことばは意外だ。
「ロケット? どこにロケットがあるのですか。ロケットの噴気孔なら、空に向いていてはおかしいですね。ロケットの噴気はおしりから出るんだから、あのかたちではロケットは空へとびあがるどころか、ますます大地の中へもぐりこむではありませんか」
「ふふふ」と教授は笑った。
「あれでいいのです。なぜといって、あの噴気孔からガスをふきだせば、このジャンガラ星が前進するのです。おわかりかな」
「ええッ、なんですって」
川上は、おどろいて聞きなおした。
「つまり、このジャンガラ星が自力で宇宙を旅行することができるように、あれをいま取付け中なんですわい。そうでもしないことには、ジャンガラ星はいつまでも月の周囲をぐるぐるまわっている劣等星《れっとうせい》でがまんしなければならぬ。それでは、われわれはとても満足できないですからね」
教授は、大きな計画を語った。川上はすっかりおどろいてしまった。
「でも……でも、いくら豆つぶみたいな星でも、星を動かすには、たいへんな力がいるわけでしょう。その原動力はどうしますか」
「知っているじゃないですか、川上君。原子力というものを使えば、そんなことはわけなくできる
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