ッ。そして何が見えるって。何が見えているんだろうと、いうのかい。きまっているよ、それはゆうれいだよ」
「なに、ゆうれい?」
「そうさ、ゆうれいにちがいないよ。だって墓場から出てくるのはゆうれいにきまっているじゃないか」
「あんなことをいっているよ。あんなゆうれいがあるものか。よく見てごらんよ」
 千ちゃんにいわれて、ポコちゃんがよく見ると、なるほどゆうれいにしてはどうも形がへんである。だいぶん近づいたので、よく見えるようになったが、胴のところに四角な窓がある。ポコちゃんは首をひねった。
「なるほど、四角な窓がついているゆうれいなんて、へんだね。……ああっ、そうか。おい千ちゃん、たいへんだよ。あれはだれかの宇宙艇だよ。遭難したらしいね。早く助けてやらなくては……」
 ほんとうだった。それは宇宙旅行中に遭難した宇宙艇にちがいなかった。近づくにしたがって、その宇宙艇の胴にかいてある「新コロンブス号――アルゼンチン」という艇の名前が読みとれた。
「ああ、新コロンブス号じゃないか。今から三年前にアルゼンチンの探険家ロゴス氏が乗ってとびだした新コロンブス号じゃないか」
「ああ、そうか。ふうん、すると三年前から、あのとおりお墓になってしまったんだよ。乗組員はどうしたろう。千ちゃん、すこしスピードをゆるめて、そばへいってやろうじゃないか」
「うん、そうしよう。しかしちょっと危険だぞ。うっかりするとこっちも墓場の仲間入りをするおそれがある」
 カモシカ号は、いくらか速度をゆるめ、新コロンブス号の方へ近づいていった。
 すると、望遠テレビで、しきりに焦点を新コロンブス号に合わせていた川上が、「あっ」とさけんで、あおくなった。
「どうした、ポコちゃん」
「た、たいへんだ。新コロンブス号はがい[#「がい」に傍点]骨に占領されているよ。あの窓をよく見てごらんよ。どの窓にも、がい骨がすずなりになって、こっちを見ているよ」
「えっ、そうか。気持のわるいことだなあ」
 山ノ井も望遠テレビをのぞきこんだ。かれは首すじがぞっと寒くなるのをおぼえた。
 すずなりのがい[#「がい」に傍点]骨! それはみんな乗組員のなきがらにちがいなかった。なんという気のどくなことであろう。宇宙探険の先駆者《せんくしゃ》のはらった、とおといぎせいである。
「敬礼をしよう」
「ロゴスさん、ばんざい」
 そのとき二人の少年は、ほとんど同時に、難破した新コロンブス号の一つの窓に何か字をしたためてある一枚の紙がはりついているのを発見した。そしてそのうしろに、りっぱな艇長の服をきているがい[#「がい」に傍点]骨が立っていて、
「お前たち、早くこれを読めよ」といっているようであった。どうやらそれはロゴス氏のがい[#「がい」に傍点]骨らしい。
 がい[#「がい」に傍点]骨がまもっているその一枚の紙にはたしてどんなことが書いてあったろうか。


   がいこつ[#「がいこつ」に傍点]の警告


 がいこつ[#「がいこつ」に傍点]艇長が、こっちを向いて、紙に書いたものを「ぜひ、これを読め」というように、こっちへ見せているのだ。
 山ノ井も川上も艇長服を着たがいこつ[#「がいこつ」に傍点]には、びっくりして顔色をかえたが、わけのありそうながいこつ[#「がいこつ」に傍点]艇長のようすに、こわいのをがまんして、紙きれに書いてある文句をひろって読んだ。
 それは、つぎのような文章であった。
[#ここから1字下げ]
――ここは宇宙の墓場だ。けっして乗物のエンジンをとめるな。エンジンが動かなくなるとわが新コロンブス号と同じ運命になろう。それからもう一つ、時々ここをつきぬける、すい星があるから注意せよ。
[#地付き]新コロンブス号艇長ロゴス――
[#ここで字下げ終わり]
 山ノ井と川上とは顔を見あわせた。
「やっぱり探険家のロゴス先生だったね」
「そうだ。ロゴス先生は、がいこつ[#「がいこつ」に傍点]になってもあとから来る者のために、とおとい警告をしていてくれる。えらい人だね」
 そういっているうちに、動いているこっちのカモシカ号は、どんどん新コロンブス号から、はなれていった。二人は、それをじっと見送りながら、宇宙探険の英雄の霊《れい》のために、いのった。
 しばらくは二人ともだまっていた。がいこつ[#「がいこつ」に傍点]艇長にめぐりあったことが、ひどく胸をいためたからだった。
 そのうちに川上が声をだした。
「ねえ、千ちゃん、いったいこの重力平衡圏というところは、どんなところだろうね。もちろん地球の方へ引く重力と、月の方へひっぱる重力とが、ちょうどつりあっていて、重力がないのと同じことだとはわかっているが……」
 ポコちゃんの川上は、小さい目をくりくり動かして、そういった。
「それだけわかっていれば、それでいいじ
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