ん人気があることもわかってうれしかった。また、金星探険団のマロン博士一行の乗っているロケットが針路をあやまって大まわりをしたために、いまだに金星につかないで、金星のあとを追いかけて太陽のまわりをぐるぐるまわっているが、このちょうしではもう地球へもどれず、博士一行は宇宙で遭難し白骨《はっこつ》になるのではないか、と心配されている、といういやな報道もあった。
このカモシカ号が、マロン博士一行みたいな運命におちいってはたいへんである。二少年は、たいくつの心をふるいおこして、一所けんめい艇のエンジンのちょうしをしらべ、そのほか艇が持っているいろいろな装置をしらべて、故障のおこらないようにつとめた。
艇は気密室《きみつしつ》になっていた。気密室とは、空気がもれない部屋のことをいうのだ。もしこの気密がわるくなり、艇内の空気が外へもれはじめると、二少年は呼吸ができなくて死んでしまわなければならない。だから艇が気密になっているかどうかを、念入《ねんい》りにしらべる必要があった。
いよいよ地球から遠くはなれて月に近くなった結果、重力がうんと減《へ》った。するとからだは軽《かる》くなるし、鉛筆などをほおりあげても、いつまでも上でふわふわしていて、なかなか下へおちてこないというわけで、まるで魔術師になったようでおもしろい。
だが、机の上においた本が、いつの間にやら宙へうかんでいたり、たべようと思ってパイナップルのかんづめをあけると、たちまち中から輪切《わぎ》りになったパイナップルや、おつゆがとびだしてきて、宙をにげまわるなどと、いうこともあって、なかなかてこずる。本や、かんづめはまだいいが、エンジンのちょうしがくるったり、燃料が下からたつまき[#「たつまき」に傍点]みたいになって操縦席までのぼってきたり、どの部屋もごったがえしの油だらけになる。これでは困るから、人工重力装置を働かせて、この艇内の尾部《びぶ》の方に向けて、万有引力と同じくらいの人工重力が物をひっぱるようにする。この人工重力装置が働いているあいだは、机の上の本も机の上からにげださないし、輪切りのパイナップルも、ふたのないかんの中におとなしくおさまっている。
急行列車で地上を走ったり、飛行機で太平洋横断の旅行をするのとはちがい、宇宙旅行をするにはこのようにかって[#「かって」に傍点]のちがったことがいくつもあって、たいへんやっかいであるが、そこがまた、たいへんおもしろいところでもある。
宇宙の墓場《はかば》だ
「おいポコちゃん。いよいよきたぞ、宇宙の墓場へ。このへんは、もう宇宙の墓場なんだぜ」
山ノ井は、となりの席でもう三時間もぐうぐうねむりつづけている川上を起した。
「うううーん。ああ、ねむいねむい。なんだ、もう食事の時間か」
「あきれた坊やだね。宇宙の墓場だよ」
「シチュウが袴《はかま》をはいたって。そいつはたべられないや、口の中でごわごわして……。ああ、ああっ。腹がへった」
ポコちゃんは目がさめると、おなかがすいたとさわぎだすくせがあった。山ノ井の千ちゃんは、あきれてしまって、とちゅうからもうだまっていることにして、しきりに暗視《あんし》テレビジョンのちょうしをかえながら艇外へするどい注意力をあつめている。
ああ、宇宙の墓場。
そこは重力平衡圏《じゅうりょくへいこうけん》というのが、ほんとうであろう。つまり地球からの引力と月からの引力がちょうどつりあっていて、引力がまったくないように感ぜられる場所なのだ。そこは、もちろん地球と月の中間にある。そこから月までの距離を一とすると、そこから地球までの距離は九ぐらいになる。だから月にたいへん近い。
この重力平衡圏は地球と月との間に、かべのように立っているのだ。しかしそれは平《たいら》なかべではなく、まがっている。
そこへ流れこんだ物は、宙ぶらりんになってしまって、地球の方へも落ちなければ月の方へも落ちない。そしていつまでも宙ぶらりんの状態がつづく。だから宇宙の墓場といわれる。
それに、大昔からこの重力平衡圏へ流れこんで、宙ぶらりんになっている物が少なくないのである。だからいよいよそれは宇宙の墓場らしく見えてくるのであった。山ノ井は、どんなものが宙ぶらりんになっているかと、目をさらのようにしてテレビの幕面《まくめん》をのぞいている。
すると、一つだけ、見えた。
「なんだろう、あそこにある細長いものは……。いん石にしては長すぎるし、それにいやに形がいいし、へんだなあ」
山ノ井がひとりごとをいったのを、川上のポコちゃんが聞きつけて、なんだ、なんだとそばへよってきた。
「へえっ、とうとう宇宙の墓場へやってきたのかい。それはたいへんだ」
ポコちゃんは、小さい目を鉛筆のおしりのように丸くしておどろいた。
「え
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